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2020年7月10日金曜日

【抜粋】〈俳句四季7月号〉俳壇観測210 現実社会を見るということ――小林貴子とコロナに触れながら 筑紫磐井 その2<コロナ禍>

[「俳句四季」の俳壇観測7月号の記事を転載しようと思ったが、2か月前に書いた記事はすでに古いものになってしまっている。雑誌の締め切りは2か月前であるがから現実のスピードに追い付いていないのだ。BLOGに転載するには加筆しなければ意味がない。以下は新版である。]

コロナの現実と言説
 さて、コロナ禍は、数週間で感染数・死者は劇的に増加し、今後の予測不可能を特色としている(百年前のスペイン風邪は三波にわたり二年半続き全世界の死者数千万人に及んでいたという)。一方、この二か月の識者たちの言説はめまぐるしく変化し、何が正しかったのは終焉するまでわからない状況にある。この三か月間の推移を眺めてみよう。

①発生源は中国・武漢であり、その拡散が進んでも水際で制圧できると考え、日本では他人事のような意識が強かった。
②水際で失敗したのちは、感染源を追跡することで抑制しようとし、「コロナを制圧」「明るい社会でオリンピックを」が国民のキャッチフレーズとしてマスコミを賑わわせた。
③にもかかわらず、アメリカ、イタリア、スペインは歯止めがきかず、中国、韓国は一足先に収まるのに日本は行方が知れない状況が続いた。テレビでは再放送と静止画像が提供され、オリンピック年であるにもかかわらず、スポーツ選手がスポーツでなく、自室での体操やエールで表現するようなわびしい風景が提供されるようになった。
④やがて欧州で感染が横ばいとなり、日本もめどがついてきた一方で、先行国の中国・韓国で再流行が始まる。長い自粛、または繰り返しの自粛が予想され、「新しい生活様式」「コロナと共生」が新しいキャッチフレーズになった。
⑤3か月にわたる営業停止は経済に大きな影響を与えたところから、すべての営業の自粛が解除されることとなる。都知事が、これからは「自衛の時代」だというのである。
⑥しかし、一部営業の解除が行われたとたんに緊急事態宣言以前の感染者数レベルに戻りつつあり、都知事は「感染拡大要警戒」という新しい用語を開発した。経済再生担当大臣は「また緊急事態宣言の時期に戻りたくないでしょうと絶叫し、都知事は国の緊急事態宣言を出せば営業自粛の要請を考えると責任を擦り付け合っている。

 この数か月の記事を日記からまとめてみたものだが、その都度の政策に踊らされてきたような気もする。最近の状況だけ見ても我々の生活指針はまだ混迷に陥りそうだ
 一方で、5~6月に届いた俳句雑誌を見るとほとんど句会を中止している。7月までキャンセルしている例も珍しくない。一刻も早くコロナが已むことを期待し、それまで会員は我慢することを呼びかける主宰の声は悲痛でさえある。俳句雑誌にとって句会が開けないということがこれほど致命的と思わなかった。ネット句会が補完的に行われているが、主宰を頂く結社にはそれだけでは十分ではないのだ。

我々の行動指針
 実を言うとこの原稿を3月以降何度も書き直している。俳壇観測7月号も書き直したし、その後7月末に刊行予定の「奔」にも書き改めて書いている。その間、白と黒ぐらい結論の違うバージョンになってしまっている。一見国内の流行は収まったようだが、南北アメリカはまだこれからだ。一方、多くの感染者・死亡者を出す犠牲をはらった国は抗体を獲得し、日本はほとんど獲得していない。日本は、今後長期にわたって海外からの受け入れを拒むことになろう。この原稿を書いているのは7月5日だがこの記事が発表になるときの状況の変化は予測もできない。(追加:79日では、とうとう東京都の新規感染者は224名となり過去最多の数に上った。過去最多が417日の206人であったから、もうコロナが収束段階に入ったとは誰も考えていない。)
 ただコロナの生物学的予測はできないが、人間行動の原理については言えると思う。兼好法師の『徒然草』に引用されて有名な、鎌倉時代の名著『一言芳談抄』の「しやせまし、せずやあらましと思ふ事は、おほやうは、せぬはよきなり(しようか、しまいか、迷うときは大体しない方がいいのだ)」は不滅の金言であろう。迷うこと自身で既にその人の結論が出ているからだ。そして、これこそ、高齢者の、俳人の究極の行動指針なのである。
 考えてみると、自粛が解除になったというが、これは本当の「自粛」ではない、戦前から続くお上の圧力の大きな成果であり、誰一人自分で判断して自制したものではない。こうした官制の「自粛」が終わった後で、初めて国民は自分で考えて「自粛」するのである(都知事は「自衛」と言っている)。お上の行動指針とは違い、他人のためではなく自分のためである。
 例えば、「新しい生活様式」「コロナと共生」とは、意味が分からない言葉だ。どんどん経済社会活動はすべきだがルールを守れと言うことらしい。自分のためにではなく社会のために守れと言っているからだ。
 しかし、三密(三密というのは実は真言密教による秘儀であり、身・口・意の合致による不可思議世界の実現を言う。コロナの予防法として言うのは失礼な言葉だ)を避けると言うのが予防科学的に正しいのなら、自分の身を守るためには、経済と両立などと言わす、①風俗産業(「接待を伴う飲食店」「夜の街」ともいう)に近づかない、②酒食を共にした交際をしない(特に風俗産業に行ったと思われる人とは)、③怒号絶叫抱腹歓喜接触接吻を伴う観戦・興業・冠婚葬祭・祝賀会・励ます会にでかけない、ということだろう。

自粛の基準
 だから自粛には、自分を納得させる合理的判断が必要である。その一例として、東京都23区における感染発症リストを作ってみた。
 東京では初期は世田谷区が最も感染者が多かったが、これは当然である、世田谷区の居住人口が最も多いからである。そこで居住人口を感染者数で割った、感染者1人を出す人口(大きければ大きいほど安全である)をリストアップした。歌舞伎町のある新宿区が最も危険で、第2位が新橋・六本木のある港区である。世田谷区、杉並区が中位で多いのは新宿区を経由しての帰宅者が多いせいではないか。不思議なのは、足立区、江戸川区、北区などが安全なことで、工場地帯のせいかとも思うが、あるいは危険な港区、新宿区から遠い(少なくとも両区で酒食をして帰る人が少ない)せいかもしれない。安全地帯と危険地帯を比較すると、7倍近い差が出る。県だけでなく区を越えた移動も問題なのだ。
 自分や家族のために必要な場合は死ぬ気で行かざるを得ないが、宣伝に乗ってふわふわと買い物や旅行・遊興に出かけるのは、これを見るととてもできなさそうだと言うのはよく分る。

【区別感染率】感染者数は6月19日の数字。比率は人口÷6.19の感染者数。
  区名  人口   感染者 比率
①新宿区  348千人 551人 632人に1人
②港区   260千人 346人 751人に1人
③台東区  202千人 175人 1154人に1人
④渋谷区  230千人 194人 1186人に1人
   ・・・・
㉑板橋区  571千人 158人 3614人に1人
㉒足立区  691千人 159人 4346人に1人
㉓江戸川区 700千人 154人 4545人に1人

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