97.飛ぶ鳥よあとくらがりのみづすまし
<みずすまし>はA.ゲンゴロウ科の「まひまひ」とB.オサムシ科の「あめんぼう」の両方の呼名で呼ばれ、関西か関東かでもその区別は異なると言われている。
<静まれば流るる脚やみづすまし 太祇>とか、<山水のすむが上をも水馬 一茶>など、江戸時代の俳諧でミズスマシと言えばおおむねアメンボということになる。
この句はどうだろうか。暗がりで生息するのであれば、Aのゲンゴロウ科「まひまひ」の方ではないかと思う。ゲンゴロウは肉食性の動きの活発な昆虫で金魚などもガブリと食べる。
掲句は、鳥とみずすましの対比である。飛び立つ鳥の後に残る生の場面。飛ぶ鳥はみずすましを餌としたかもしれず、仲間が生贄になったとしても、生きるために肉を食らう虫たち。飛ぶ鳥という明るさとみずすましの暗さの対比が美しい。
切れ字の後の、「あとくらがりの」の「あと」が敏雄の技法ともいえるかもしれない。直後という意味合いも伝わってくる。残された場に生きているものがいるのである。
鳥の句の一覧は<72.北空へ発(た)つ鳥の血をおもふなり>を参照。
ちなみに<蒼然と晩夏のひばりあがりけり><飛ぶ鳥よあとくらがりのみづすまし>は、『眞神』収録句であるが、
蒼然とあがる雲雀や水すまし (天狼S43.9)
という形で発表された句がある。
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