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2013年11月1日金曜日

新・攝津幸彦特集について(豈55号より巻頭言を転載)/発行人 筑紫磐井

一九九六年一〇月一三日、攝津幸彦が亡くなった。まだオウムサリン事件も、九・一一テロも、三・一一東日本大震災も発生しない平和な二〇世紀の世紀末であった。当時山口誓子も、阿波野青畝も、加藤楸邨も、永田耕衣、飯田龍太、森澄雄、鈴木六林男、能村登四郎、野沢節子、平畑静塔、阿部完市、飯島晴子も存命だった。こんな戦後俳句の最後の収穫時に攝津幸彦はなくなったことになる。それから八年後には田中裕明が亡くなり、この二人は以後戦後生まれの夭折作家として語られることになるが、田中は明らかに二一世紀の空気を吸っていたのに対し、そんな空気を皆目知らないまま攝津はなくなっている。

「豈」において、攝津幸彦特集は、なくなった直後の「回想の攝津幸彦」特集、「攝津幸彦没後一〇年」特集と二回行ったが、いずれも攝津と濃密な関係を持つ人々の協力を得た。しかし、一七年たった今、攝津幸彦存命中の豈同人は二四人となっており(今回の特集を企画しているその最中にも須藤徹同人の逝去が報じられた)、圧倒的に没後参加した同人が多数を占めている。

 今回攝津幸彦特集を企画したのは、豈のこんな状況を踏まえて編集を行おうとしたものであった。すでに攝津幸彦の特集に協力された攝津をよく知る藤田湘子、加藤郁乎、松崎豊、三橋敏雄、佐藤鬼房、長岡裕一郎、中村裸鳥さえなくなられている、一七年の歳月はこんな状態をもたらしているのだ。今回の特集は、攝津幸彦を全く知らない人たちが殆どの参加者であろうと思われる。そんな時代の攝津幸彦特集の第一回目として本号を編集した。

第二回攝津幸彦記念賞発表

 第四三号で募集した攝津幸彦賞(評論)に引き続き七年目の攝津幸彦記念賞を募集したところ一七人の応募を得た。全作品(俳句、短歌及び評論)より池田澄子、大井恒行、高山れおな、筑紫磐井が選考を行い次の結果を得た。応募していただいた方々には厚く御礼申し上げる。

 正賞 花尻万博
 準賞 小津夜景 鈴木瑞恵
 佳作 しなだしん 佐藤成之 山田露結 望月士郎
      山本敏倖 夏木久 

 正賞、準賞には副賞を授与するとともに全作品を掲載し、佳作は選考委員が抜粋した作品を掲載することとした。この賞でこそ花開く新しい時代の野心的な作家に攝津幸彦の名前を冠した賞が贈られることは意義があるものと考えている。

 ちなみに、第一回は二〇〇六年に公募・発表され、関悦史、神野紗希、野口裕が受賞している。

特集Ⅰ 関西シンポジウム《一九七〇年―八〇年の俳句ニューウエーブ、攝津幸彦を読む》

 二〇一二年九月八日(土)、神戸文学館で、大橋愛由等を司会に、中村安伸、 岡村知昭、堀本吟をパネラーとしたシンポジウムを開催した。今回の特集では、シンポジウムの進行とこれをめぐる記事で構成した。

1 シンポジウム概要        
2 パネラーの発言と事後の感想
3 会場からおよびその後の反応 
4 シンポジウムを終えての印象 
 
 攝津幸彦をテーマとした催しとしては、二〇〇六年一〇月に「大南風忌――攝津幸彦没後十年の集い」で講演会が開かれたが、それ以来のものであり、また関西での初めての催しであった。

 これをひとつの核に、評論で構成するもうひとつの特集を編集することとした。

特集Ⅱ 想望・攝津幸彦とその時代

 すでに評論を中心とした攝津幸彦特集は第二八号、第四三号で特集したが、今回は回想というより二一世紀における攝津幸彦の受容を考えるために、若い世代を中心に初めて攝津幸彦を語る人たちによる攝津論、あるいは攝津幸彦の周辺がどのように変わっているかを検証した。戦後生まれの一〇人については、攝津幸彦の時代を語るにふさわしい顔ぶれを人選した。

1 攝津幸彦を語る
2 同時代評論
3 同時代ジャーナリズム
4 続戦後生まれの一〇人(久保純夫・谷口慎也・西川徹郎・対馬康子・鎌倉佐弓・西村和子・保坂敏子・中原道夫・櫂未知子・中西夕紀)

 攝津幸彦を論ずることは、同世代を論ずることであり、特集Ⅰではこれを「一九七〇年―八〇年の俳句ニューウエーブ」ととらえたが、特集Ⅱでは攝津幸彦を中心に遠心的に布陣を敷いてみた。その意味では、前号の「『新撰21』世代による戦後生まれ作家一〇人論」一〇人(攝津幸彦・高野ムツオ・正木ゆう子・片山由美子・星野高士・小澤實・長谷川櫂・夏石番屋・田中裕明・岸本尚毅)に加えて、豈同人による「戦後生まれ作家論」五人(宮入聖・筑紫磐井・林桂・江里昭彦・攝津幸彦)と併せて再びご覧頂ければありがたい。「俳句」八月号で、筑紫・高野が小川軽舟の世代論の批判をしたことに関し、小川が「団塊世代はどなたかが書かれるかなと思ったけれど、誰もお書きにならなかった(笑)。それが団塊の世代らしい」と揶揄していたが、戦後生まれ作家(攝津~岸本)としての鳥瞰図式がまずは必要であろう。

今回の攝津幸彦特集は従来の豈刊行のペースで進めているところから、本号で載せきれなかった特集記事は次号五六号でも掲載することとし、実質的に三号にわたって行われる特集となっている。一年間にわたってゆっくりご覧頂ける企画とした。

 「豈」も本年で創刊三十三年を経過したこととなり、この間、攝津幸彦を発行人とする時代(第一次豈。当時は二年に一冊出ていた)、新しいスタイルの模索時代(第二次豈)、現在につながる「―俳句空間―豈」の時代(第三次豈)と変遷している。第三次「豈」となってからですら既に九年目を迎えているが、変わっているようで変わらぬ海鼠のような本体は攝津以来の創刊精神だと思っている。





                     ※『-俳句空間- 豈 第55号』は邑書林のサイトから購入可能です。

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