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2013年6月14日金曜日

上田五千石の句【テーマ:青】/しなだしん

水貝や午下に入りたる海の寂

第三句集『琥珀』所収。平成二年作。

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作品の最後の「寂」には「さび」とルビがふられている。

水貝は鮑の刺身料理のひとつで、切り身は見た目にも涼やかにふるまわれる。取れたての鮑を漁場の近くで食べるのは至極のひとときに違いない。

この句の「午下(ごか)」は、昼すぎ、昼下がりの意。真夏の昼すぎ、海の近くの海鮮料理を出す店に落ち着いたのだろう。窓からは青々とした海が見渡せる。

「寂」は辞書によれば、[1]古びて趣のあること。閑寂の趣。さびしみ。しずけさ。[2]枯れて渋みのあること。[3]しおり・細みなどとともに、蕉風俳諧の基調をなす静かで落ち着いた俳諧的境地・表現美、等の意味がある。

この句の「寂」は、[1]のさびしみ・しずけさや、とも考えられるし、[3]の意味も無くはないと思うが、昼すぎのやや衰えた海の色、風が止んでべた凪となった油のような海面の表情を、五千石はこの「寂」という言葉で表現したのではないだろうか。

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この句の構成は、まず「水貝や」で目の前に物を提示し、「午下に入りたる」とたっぷり調べを整えつつ読者に時間的設定の把握を促す。その上で「海の寂」という凝縮した言葉で海の状況を読者に想像させる。

真夏の昼のぎらっとした海の色は夏ならではのものに違いないが、べた凪の群青の海はもう一つの夏の海の表情といえる。

「青」という字は表出していないが、真夏の海の様々な「青」が思われる作品。

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この句の制作年、五千石は五十七歳。俳人協会理事就任。


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