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2013年2月22日金曜日

句集・俳誌渉猟(3)~「~俳句空間~豈」~/筑紫磐井

「―俳句空間―豈」54号(2013年1月)

このブログで「豈」を取り上げるのも奇異なものだが、豈そのものを読んでいる人が多くないので、ここでその内容に触れてみたい。言っておくが、私は発行人として企画までは関与しているものの、執筆者がどのような原稿をまとめているかは発行段階まで知らない。編集人である大井氏がすべて進めてくれているので、一般読者と同じような感じでこれらの評論を読んでいるといってもよい。

「豈」54号の特集企画は戦後生まれ作家論である。現在「豈」の編集をしている大井氏が今から20年前に編集長をしていた「俳句空間」(弘栄堂書店刊)の休刊号で戦後生まれ十八人を取り上げた<現代俳句の可能性>の特集を行った。その時のメンバーは、谷口慎也・攝津幸彦・西川徹郎・宮入聖・金田咲子・久保純夫・筑紫磐井・江里昭彦・大屋達治・正木ゆう子・片山由美子・対馬康子・林桂・長谷川櫂・夏石番矢・四ッ谷龍・田中裕明・岸本尚毅の18名である。今回は、それらのメンバーを精査して次の14人が登場した(★印は<現代俳句の可能性>と重複)。次号55号でも続く予定であるから2号にわたる戦後生まれ作家と見てもよい。両号を眺めることにより、伝統と前衛のバランスの取れた世代論がうかがえるであろう。

まずは、総論を筑紫が大井恒行にインタビューして始まる。世代論の切り口がまだ確定していない時期(他のジャンルであればこの世代の評価が決まっていないというのは信じられないことであるが!)だけにガイダンスは必要であろう。

【『新撰21』世代による戦後生まれ作家10人論】

この種の特集では普通珍しくないのだが、豈としては珍しいのはそれぞれの作家(いずれも結社主宰者だ)のお弟子さんが一部論じていることである。ただこれらの主宰者は自分の雑誌で自分を論じることに熱心ではないのであまり目立った作家論がないことである。そこで豈の場で強制的に弟子たちに書いてもらうことにした。特に戦後生まれ作家10人という横串の中で論じることは、結社の中の閉鎖的な論と違って若々しさを発揮してくれるだろう。<現代俳句の可能性>で取り上げなかった作家である(その理由は大井恒行がインタビューの中で説明している)が、他意はない。

  • 高野ムツオ論(関根かな)
  • 星野高士論(矢野玲奈)
  • 小澤實論(相子知恵)

読者はじっさい読んでみて感じられたらいいと思うが、読んでみて分かるが決して客観的な論になっていないところがいいのである。作家論は客観的であるべきだなどというのはとんだ錯覚・幻想である。一人の作家からどこまで、何を引きずり出したかが作家論の価値なのである。今回十分その期待に応えてくれたであろう。

   *   *

  • 攝津幸彦論★(北大路翼)

この破天荒な怪物が攝津をどう論じるかは興味津々である。同じ怪物ながら、長谷川櫂論を論じた関悦史と北大路とでは、ケンタウロスの上半身と下半身の闘いのような趣がある。攝津論にはこの他に、「攝津幸彦論、再構築のために」(堀本吟×筑紫磐井)、「千年の時の彼方に」(わたなべ柊)が書いている。これは「豈」の場であることとてお許し頂こう。


  • 正木ゆう子論★(神野紗希)

神野紗希が将来の道筋で見ているのは正木ゆう子あたりにあるのではないかと予測して担当を求めた。


  • 片山由美子論★(松本てふこ)

最も正統的である作家を反正統派と目されている同性作家がどこまで切り込めるかである。てふこが書いた北大路翼論や柴田千晶論(そういえばいずれも「街」作家であった)とは全然違う切れ味を期待した。


  • 長谷川櫂論★(関悦史)

この特集の一つの見物は、新人の中でも知識の怪物じみている関が虚子の如く俳壇に君臨しようとし、一見非常に遠いところにいる長谷川をどのように捌くかにある。


  • 夏石番矢論★(堀田季何)

夏石を論じられる若手作家は滅多にいない。「澤」と「吟遊」に所属するという、古いわれわれでは理解出来ない脳構造をもつ堀田は新しい夏石論を導入してくれる。


  • 田中裕明論★(高柳克弘)

第1回田中裕明賞を受賞した高柳が田中を論ずる。すでに高柳の田中論は幾つか見られるようだが、こうしたラインアップの中で他を意識しながら高柳が論ずることは滅多にないだろうから、人選としては面白いはずだ。


  • 岸本尚毅論★(冨田拓也)

長谷川論と同じ視点で、純粋前衛派とも言える冨田が虚子の権化とも言える岸本を論ずるのも興味深いであろう。


【(豈同人による)戦後生まれ作家論】

豈同人に、何の条件も付けず戦後生まれ作家論を求めたところ書かれたのが次の4人と攝津幸彦論であった。全体が前衛系戦後生まれ作家(上では夏石番矢のみが入っている)論となったのは「豈」という雑誌の特徴であろう。上の10人と比べて読むと面白いものがある。

  • 宮入聖★(青山茂根)

すでに伝説となっているこの作家は、時折論じられることがある。昨年も宇多喜代子が「俳句」の連載評論の中で熱っぽく語っていたが、青山茂根が論じるとは正直びっくりした。長谷川櫂や岸本尚毅を関悦史・冨田拓也が論ずるのと全く逆の意味で常識を裏切る、それだけ期待させる論となっている。


  • 林桂★(杉本青三郎)

未だ豈に参加したばかりの杉本が焦点を絞ったのが、「未定」ー「鬣」の中心にいる林桂である。俳句のニューウェイブといった表現をした時必ず登場した林もすでにすでに還暦だ。是非その全貌を語って貰いたいものである。


  • 江里昭彦★(高橋修宏)

忘れてはならない作家江里を期待通り取り上げてくれた。その過激さは評論でも、作品でも、それ以外の活動でも、極めて分かりやすい旗幟鮮明な陣地を構えていた。


  • 筑紫磐井★(小湊こぎく)

これは私のことなので論じない。ただ、第1句集の若い時代を丹念に論じてくれた。





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