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2023年12月8日金曜日

【抜粋】〈俳句四季10月号〉俳壇観測249 前衛の軌跡と終焉——澤好摩と岸本マチ子(後編) 筑紫磐井

(前略)

岸本マチ子と沖縄

 澤氏に引き続くように、沖縄の俳人岸本マチ子が7月29日亡くなった。88歳であった。「形象」「天籟通信」「海程」「頂点」「豈」に所属し、「WA」を創刊した。句集に『一角獣』『残波岬』『ジャックナイフ』『うりずん』『縄文地帯』『曼殊沙華』『通りゃんせ』『鶏頭』があり現代俳句協会賞を受賞している。

 しかし岸本氏は普通の俳人と違った怒涛のような生涯を送っている。もともと群馬県伊勢崎市の織元の娘として生まれたが、親の希望で7歳まで男の子として育てられたという。戦中は伊勢崎の空襲で被災、玉音放送も聞いたという。戦後、中央大学に入学し、フェンシングで関東学生選手権に優勝、文武両道の人だった。卒業を控え、沖縄出身の同級生と結婚、学割(!)で沖縄に渡航するが軍政時代から民政府時代の混乱に遭遇。後に琉球放送に入社、退職後フリーのアナウンサーと同時に雑貨卸業を続ける。この間ベトナム戦争、コザ騒動、沖縄日本復帰を経験。『与那国幻歌』『コザ 中の町ブルース』をはじめ多くの詩集を出し、山之口獏賞、小熊秀雄賞、地球賞等を受賞。評伝『海の旅――篠原鳳作の遠景』『吉岡禅寺洞の軌跡』があり、また晩年は沖縄県現代俳句協会編『沖縄歳時記』を中心となって刊行した。生涯沖縄にこだわり続けた作家であった。

 岸本氏の詩の代表作「サシバ」(サシバは春から日本に渡来する鷹の一種で長距離に亘る移動を行う。絶滅危惧種となっている)の中で書いている「あざやかに生きることも/あざやかな女になることもやめた女は/今胸の中に一羽のサシバを飼っている」は岸本マチ子そのものを描いているような気がする。


鞭のごと女しなえり春の雷  『一角獣』

尾をたらす首里正殿の夏木霊 『うりずん』

渺々と大鷲が飛ぶ雲がとぶ  『縄文地帯』

曼殊沙華ふところに咲くテロの街 『曼殊沙華』

かつて色町とくにかげろうひじり橋 『通りゃんせ』

白萩ゆれ夢の中までどどどと兵 『鶏頭』