【俳句新空間参加の皆様への告知】

【ピックアップ】

2023年4月21日金曜日

第34回皐月句会(2月)

投句〆切2/11 (土) 
選句〆切2/21 (火) 


(5点句以上)

9点句

いいかけてそっと平目を裏返す(望月士郎)

【評】 何を言いかけたのだろう、とても気になる。──仲寒蟬


7点句

愛されぬ者等火を焚くチェホフ劇(松下カロ)

【評】 具体的な作品というより、チェホフの話のなかの人々は愛され難さに灼かれてるよなあ、とつくづく思ったので。──佐藤りえ


うなぎ屋の借景春の山ひくく(岸本尚毅)

【評】 どういう光景かなと考えたら可笑しい。すこし上等な店であじわうなぎフルコース、落ち着いた部屋など借りて、かば焼き、やうな重、う巻き、肝吸い、など順々に舌つづみを打ちながら、空腹もややみたされ、ふと窓外の庭の景色を見る。春の気配を増した山の緩やかな起伏が、まるで生きていた頃のウナギのくねくねなよなよした様のようにも思えてくる。と勝手に想像をたくましくする。料亭の庭の背後に見える山を「借景」というところが何気なさそうな工夫を見せる。我々にもこんなのんびりした日があったとは懐かしい。──堀本吟


毛布てふ山河なすもの病ひの子(辻村麻乃)

【評】 昔、「世にも不思議な物語」という初期のテレビドラマがあった。ある回で、探検に加わった青年が砂漠で遭難し亡くなり、隊長がその訃報を両親に伝えに行くという話があった。両親が言うには、確かに自分たちの息子は亡くなっているが、病で寝て数年来一歩も動けず、ベッドで最期を迎えた、ただ不思議なことに手元に水があるのに、砂漠にいたかのように渇き死にしていたという。──筑紫磐井

【評】 病の子にとっての「山河」、判る気がする。──渕上信子


薄氷を踏むだけ踏んで変声期(飯田冬眞)

【評】 薄氷を踏むのと変声期、どことなく通い合っている。──仲寒蟬


6点句

雲はただ遠くて春の帽子かな(岸本尚毅)

昼にのみ出る幽霊や梅林(西村麒麟)


5点句

雪吊や雪のかけらの如く星(仙田洋子)


(選評若干)

真二つに白菜わるる寂光土 3点 田中葉月

【評】 白菜の芯が白くてきれいという句は幾つもあるが「寂光土」という言葉を持ってくるとは参った。──仲寒蟬


船の絵の掛かる物置小屋に春 4点 佐藤りえ

【評】 雑多に物が置かれている小屋の景が目に浮かびます。──渕上信子


冬芽見ていてもう歌わない人のこと 4点 妹尾健太郎

【評】 あまり目立たぬ越冬する冬芽を見ている時、ふともう歌わない人のことを想い出す。眼前の冬芽のように頑張って歌を続けて欲しいと思う。──山本敏倖


春泥の濡れて絡まる慈光かな 1点 真矢ひろみ

【評】 〈絡まる〉の主語は、泥か、光か、やや難解さがありますけれども泥と解します。靴痕やら土木機械の痕やらで混沌たる春泥を云い取ったものでしょう。〈慈光〉の言葉選びに工夫あり。──平野山斗士


蟻穴を出るや箱師に注意せよ 2点 西村麒麟

【評】 暖かくなると電車に乗って遠出することも多くなるので、注意が必要です。穴を出た蟻が警戒している様子も浮かんでくる句です。──篠崎央子


風に鳴るのは凧なのか糸なのか 2点 仲寒蟬

【評】 両方でしょうか? 教えて下さい。──渕上信子


白魚を濁世に出したのは誰だ 3点 仲寒蟬

【評】 五七五の定型に沿って読ませるなら、だくせいではなく、じょくせなのだろう。そしてこの読みに従うと、自ずと生まれ合わせのことを考えたりして、それが人間であるとは限らないことにも思い至る。この繊細にして美しい小魚を生み出した者を見定めたくなる。──妹尾健太郎


海嘯のごと凍雲の畳なはる 3点 平野山斗士

【評】 海嘯の比喩が見事である。──辻村麻乃


節分の駅に傘もち鬼の待つ 4点 水岩瞳

【評】 この鬼、何だかわびしそうで同情を誘う。──仲寒蟬


雨は雪にちいさな骨はピッコロに 3点 望月士郎

【評】 そうか、骨はピッコロになって鳴るのか。──仲寒蟬


水仙に春来たるとも秦夕美をらぬ 4点 堀本吟

【評】 俳句がどうのより、この一行の思いに・・・、香の残る・・・春!合掌──夏木久


唇にふれた手で割る寒卵 4点 松下カロ

【評】 倖せだなあ・・──渕上信子


春霙点滅しげき青信号 1点 渡部有紀子

【評】 春先の寒さに雨が霙に変わる。先を急ぎたいのに、ひとまず止れと青信号が点滅する、とは季感に寄りすぎだろうか。──小沢麻結


予報より降り初め速き春の雪 2点 小沢麻結

【評】 早きとせず速きとした点に注目した。──依光正樹

【評】 気象予報より速く降った「春の雪」。どんな雪だったかが想像できる。

「速」と「春の雪」のミスマッチが新しいと思った。──依光陽子