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2022年8月12日金曜日

【抜粋】〈俳句四季8月号〉俳壇観測235 芝不器男俳句新人賞 ――新風登場の契機となって 筑紫磐井

 第6回芝不器男俳句新人賞

 令和最初の芝不器男俳句新人賞が決定した。芝不器男俳句新人賞は、4年に一度、愛媛県松野町出身の俳人・芝不器男にちなみ、今世紀の俳句をリードする新たな感性が登場することを支援することを目的とし、新鮮な感覚を備え、大きな将来性を有する若い俳人に贈る賞である。

 平成14年に第1回を愛媛県文化振興財団が主催し、第3回まで継続したが、平成26年、第4回から芝不器男俳句新人賞実行委員会によって継続されることとなった。

(中略)

 各賞は次のとおりであり、新人賞には賞状と賞金30万円、副賞が与えられ、奨励賞(選者名を冠する賞)及び特別賞には賞状と賞金5万円が与えられた。

第6回芝不器男俳句新人賞 田中泥炭

第6回芝不器男俳句新人賞選考委員奨励賞

   城戸朱理奨励賞 櫻井天上火

   対馬康子奨励賞 浅川芳直

   中村和弘奨励賞 本人辞退

   西村我尼吾奨励賞 藤田哲史

第6回芝不器男俳句新人賞特別賞 早舩煙雨

※今回、選考委員齋藤愼爾氏が病気のため参加されず、新人賞の選考には参加されなかった。また齋藤愼爾奨励賞も授与されなかった。

 新人賞田中泥炭の作品と奨励賞・特別賞受賞作を紹介する。


フリージア母は今祖母となり  田中泥炭

団栗や迅重と沼穿ちたる

狼の屍を分ける人だかり

オリオンをなぞりて嫁と姑は

型録の世に古歌留多美しき

落椿色欲忘れかけたるも いなくなり白雲木にいたような

蜩や誰も笑ってはいない

なにをたがやしてきたのだろうか くちなわの口より双の犬生れる 櫻井天上火

白ばらへ雨の垂直濁りけり   浅川芳直

降る雪が記憶の雪に掏り替わる 藤田哲史

化石にしてあげるそしてやさしくしてあげる 早舩煙雨


松山宣言と新撰21

 芝不器男俳句新人賞は平成11年の愛媛県の企画した松山宣言に始まる(有馬朗人、芳賀徹、金子兜太、宗左近らの発案)。ここで国際俳句賞の創設が提言される。翌年には正岡子規国際俳句賞が創設(四年ごとの大賞受賞者は、第1回がフランスの詩人イヴ・ボンヌフォア、第2回がアメリカの詩人ゲーリー・スナイダー、第3回が金子兜太)、平成15年に21世紀えひめ俳句賞の四賞(石田波郷賞(受賞ハルオ・シラネ)、河東碧梧桐賞(夏石番矢)、富沢赤黄男賞(加藤郁乎)、中村草田男賞(長谷川櫂))が創設された。こうした流れの中で芝不器男俳句新人賞も創設されたのである(最初の選考委員は、大石悦子、城戸朱理(詩人)、齋藤愼爾、対馬康子、坪内稔典であった。特に参与として愛媛県理事であった西村我尼吾の努力がなくては実現しなかった)。いずれも俳句のメッカ愛媛県の協力によって行われたものであるが、その後首長の交代によって途切れたのは惜しまれる。しかしそうした中で、芝不器男俳句新人賞だけは関係者の必死の努力により継続したことは冒頭に記したとおりである。

 芝不器男俳句新人賞の影響は大きく、若い作家の百句という大作の発表とそれが句集刊行につながることを実証したことで、平成21年には『新撰21』という選集が刊行され(編者は筑紫磐井、高山れおなと芝不器男俳句新人賞の中心人物であった対馬康子)、注目されるとともにビジネス的にも成功し、『超新撰21』『俳コレ』と続編企画が続き、これにより句集を持つ若手作家が登場することとなった。

 以上は私が知る経緯である。現在の若手たちの活躍の初期にはこうした運動があったことを知っておきたい。今回の受賞に当たっては、選考委員の欠席や奨励賞の辞退者、関係者の不適切発言などがあり公開形式による問題も出てきているが、今後も何とか工夫して芝不器男俳句新人賞の継続して行くことを期待している。

※詳しくは「俳句四季」7月号をお読み下さい