【俳句新空間参加の皆様への告知】

【ピックアップ】

2021年8月27日金曜日

【連載】北川美美俳句全集1

  本年1月14日に亡くなった北川美美の作品集は、この8月に評論集「『真神』考」が刊行された。今後は美美の俳句作品をまとめる作業のために、入会以来の「豈」「俳句新空間」等の作品を掲載して行くこととしたい。46歳からの作品で始まる。 

                              筑紫磐井


【豈49号】2009.11

   冬の夜

靴紐を結んでもらう雪の日に

海がひく地球の壷へ冬の夜

春塵や砂利巻きに上げて大車輪

行く春や東欧の人と乗る四両目

靑嵐銀の扉を開けて海

割れたての石に息ある五月かな

ああこれが地球のかたち吊忍

夏火事や隣のビルの靴の音

指人れてメロンしずかに種を叶く

関東平野ところどころの青みどろ

祖先にはみな子孫あり百日紅

民家民家民族民家百日紅

どれだけの人と逢いたる百日紅

どれだけの人を泣かして百日紅

お悔やみは一回恩は百回 百日紅

身の白き秋刀魚に泊怨み節

鬼蜻蜒幼き日の罪人攫い

亡き父と畳の上の夜長かな

昼のポー鍋焼饂飩のど自慢

しよこらあと手に持つ遊女寒紅

浮浪者の世迷い言の聖夜かな


【豈50号】2010.6

   トランジスタラジオ

苺の香子のくちびるに夢ごこち

海の色かさねがさねの石蓴かな

川に石人に心や夏茜

駅前に一団降りる阿波踊り

夏火事や隣のビルの靴の音

一九八九狸穴蕎麦の紫陽花よ

ひびきあふ切れ字のあとはさはやかに

北風や交差点に造花あり

雪しまき肌一枚の赤さ肉

つり銭や花屋の男子あかがりの

大晦日紫のハイウェイ驀進す

風花はうつくし昏き赤城山

老翁はおんなになりし玉椿

宅急使春入り口に届きけり

上州を春に染めたるレンガ積む

曖昧な輪郭をとぶ春の蝿

春眠や地球一周してもなほ

春時計つきトランジスタラジオかな

近づきて離れる日月勅使河原宏忌

溺死するもよし花水木揺れて


【豈51号】2011.2

   後ろの正面

かぶと煮の鯛に舌あり春寒し

春霰の海茫々と鳴きにけり

木下闇眠るしかない男かな

荷の薔薇を過積載と停められし

つつぬけの隣家の日覚まし時計かな

リヤカーのペンキ乾かぬ春怒涛

あたたかや金銀茄子足元に

春の野をおばあさんに会ひに行く

月曜出生日曜埋葬春三番

お手水に人正ガラス人梅かな

毛穴から山百合の香を吸ひ込めり

ぽこぽこにあがる噴水大人の輪

寝返りのソファの軋み明易し

造り滝真逆さまに葉の落つる

暮の秋後ろの正面に私

秋風やノー・ノー・ボーイ囗遊み

非常囗より東京タワー赤く赤く

雅子妃はトレンチーコオト畳み了え

動く歩道に歩かされてゐる冬日向

冬晴や親指と人指し指で丸


【豈52号】2011.10

   雲のやうに

初桜ひかりあつめてゐたりけり

さざ波の立ちてかがやき鳥の戀

行く春に達磨両眼を見開けり

仮の世の臍の緒つけ天鼠かな

ろくぐわつのおつぱいはすつぱきかな

港ぢゆう顔ぢゆう浴びる揚花火

抱き合ひて踊り飽きずにゐる子供

炎帝にむきだしにさる比翼塚

きりぎりす鯨の中で眠りけり

袖丈は鯨ひげほど初嵐

止め時を考へて引く芋の蔓

屋上の鳩舎消えゆく暮の秋

火戀し東京タワー尖りけり

灯る火の喉の奥まで冬ざるる

鼻長き男と分ける石焼芋

文字もたぬアイヌ語をもて熊祭

飾海老あんな男にこんな家

雲のやうに島浮びたる弥生かな

清澄の龜や鳴かずに人好きで

糸嘗めて春を弾きて玉結び


0 件のコメント:

コメントを投稿