央子さんと知り合ったのは、ルート17という超結社の句会だった。まだお互いに三十代で、にぎやかに句会をし、その後の飲み会では「句集を出すか結婚か、どちらが早いだろう」などと適齢期らしい話題で、盛り上がっていた楽しい時期であった。
東京の空を重しと鳥帰る
栗虫を太らせ借家暮らしかな
黒葡萄ぶつかりながら生きてをり
キャベツ刻む独身といふ空白に
葉牡丹の紫締まる逢瀬かな
何回か句会を重ねると、彼女の句以外のことも見えてくる。大学時代に「万葉集」を研究し、短歌もたしなむ。句会で恋の句が多く出されていたが、私は故郷を詠んだ句にはあまりお目にかかっていなかった。「火の貌」で、央子さんの知らなかった一面を見たような気がする。
血族の村しづかなり花胡瓜
祖母の魂いま雲となり夏蚕邑
ほうたるや米磨がぬ日は子に戻り
海鼠腸やどろりとうねる海のあり
火の貌のにはとりの鳴く淑気かな
そしていつの間にか(笑)結婚をし、ご夫婦で俳句と介護をされていた。
職業は主婦なり猫の恋はばむ
太股も胡瓜も太る介護かな
痩身の夫蟷螂に狙はるる
うなづくも撫づるも介護ちちろ鳴く
くもりなき遺影を抱へ年歩む
彼女は何事も正面から受け止めて、自分のものにしているように見える。まるで一途な恋である。
家族に、俳句に、縁のある土地に、央子さんの恋はまだまだ続いてゆくだろう。
コロナの影響もあり、最近お会いしていないが、これからも是非ときめく句を見せていただきたい。句会をご一緒したい。
「火の貌」の上梓おめでとうございます。
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プロフィール
足立 枝里(あだち えり)
昭和四十一年 東京生まれ。「鴻」同人
平成十八年 「鴻」 入会
平成二十五年 鴻新人賞 受賞
句集『春の雲』
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