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2020年11月13日金曜日

【新連載・俳句の新展開】第6回皐月句会(10月)[速報]


投句〆切  10/12 (月)
選句〆切  10/26 (月)

(5点句以上)
9点句
新生児室に足裏の並ぶ十三夜(中村猛虎)

【評】 上五部分を何度か読み直して字余りに読むことでリズムが心地よく整ってきた。情景もよりいっそう鮮やかになった。何かの縁で、何かの加減で予定日から前後にずれたりして同じ後の月に生を受けた者たち。その多くの足裏(あうら)を、明暗の明るい側のものと受け取れました。 ──妹尾健太郎
【評】 「新生児室」は文字通りに七音、「足裏」は「アウラ」と読めば七音(そのままに云うと八音)、結句が五音。・・・、字数があまってしまっても、この光景を発見したら見たとおりに描くしか無い。十五夜の満月にはすこし足りない姿の十三夜の月光に照らされて、それでいて、見事な完結感である。十三夜のしっとりした既成観念をこわすほどの、エネルギーを秘めた赤ちゃんの「足裏」、満月の夜には、このアウラは何人ぶんになっているのでしょう。また、どんな動きをみせているのでしょう。リアルかつ幻想的なたいへんたのしい光景です。 ──堀本吟

7点句
月光やかつては人魚だった泡(なつはづき)

6点句

吸物に浮く松茸をいつ食ふか(西村麒麟)
【評】 そこはかとなく永谷園的なところもまさに俳諧。句の後ろ側に「夜長」という季題をちらつかせているあたりは技。 ──依光陽子

鬼蔦を引いて柿とる女かな(岸本尚毅)

どうせならあの人に付く牛膝(水岩瞳)

【評】 心象のしずかに描き上げることによって、さらにしずかに何かを思う。 ──依光正樹

ありとある脚長くなる長夜かな(北川美美)
【評】 長すぎるのも大変な気がします。静かに困る感じが秋めいています。 ──佐藤りえ
【評】 あらゆるものの脚が長くなる、そんな長夜の気分の感覚が冴える。この場合の脚は、実景としての何かの脚であり、比喩とも、多義的にとも取れ詩的。──山本敏倖

5点句
猿酒や花のかんばせはや染まり(小沢麻結)

部屋中の月光たたみ鶴を折る(田中葉月)

【評】 なるほど、今夜眠った後、折鶴は月光にもどっているのかもしれない。明日の朝、寝る前と位置が変わっていないか確かめてみよう ──中村猛虎

(選評若干)
転職の決まらぬ夜のきりぎりす 3点 中村猛虎

【評】 秋の虫の鳴き声は、心を落ち着かせてくれるものが多いのですが、この「きりぎりす」の場合は心を逆撫でするような鳴き方をしますね。長き夜の奥へ奥へとしだいに追い詰められてゆくのでした。 ──望月士郎

秋寂ぶや音もなく海めくれゐて 4点 仙田洋子
【評】 音もなく海めくれゐて、の表現があまりにも美しい。小さく波が立っている様をめくれる、と表現された。そういう情景も、それを見ている作者の心情も解って来る句で、とても心惹かれました。 ──なつはづき

JFK忌後部座席の物をとる 4点 北川美美
【評】 リアルな俳句です。あの時、ジャクリーン夫人は後ろを向いて、ケネディ大統領の飛び散った頭の部分(脳)をかき集めていた~その映像をまざまざと思い出させてくれる俳句です。 ──水岩瞳

見回してわたしもいない芒原 3点 望月士郎
【評】 “そして誰もいなくなった”のでしょうか。 ──佐藤りえ

音もなき銀河衝突秋の昼 2点 仙田洋子
【評】 銀河の衝突という壮大な事象に想いを馳せていた。我に帰って「秋の昼」、空を仰いでみたい気持ちもなお感じられる。 ──青木百舌鳥

踊り場に集まる塵や月二重 3点 中山奈々
【評】 静けさの中で月の光に浮かぶ塵が美しく見えました。 ──小沢麻結

独酌の過去ばかり舐め虫集(すだ)く 1点 飯田冬眞
【評】 独酌は、過去の悔恨ばかり思い出す。恰も悔しさを舐めている感じがわかります。虫の声と秋の寂しさが伝わります。──松代忠博

ボクと言う老人と見る後の月 4点 松下カロ
【評】 老人の一人称もわたしを呼ぶ人称も「ボク」。ふたりのボクの後の月は例年よりさらに明るい。 ──中山奈々

月の出やいたるところに虫のひげ 3点 依光正樹
【評】 虫を出しつつ季語は「月の出」として月に重きを置いてあります。月光の射しそめることによって髭が、触角が、いたるところに見えるかと云えば無茶だとは思いますが文飾として賛成します。「虫滋し」といった心持を、共感覚的な手法と申しましょうか、聴覚を視覚描写へ変換したものと読むことができます。 ──平野山斗士
【評】 映像を思い浮かべるとちょっと不気味だが、見ようによっては美しい。出たばかりの月の光に照らされて何万本ものか細い虫の髭が光り、揺れている。鳴く虫の髭は馬追や鈴虫など長いものが多いから海底で揺れるウミユリのようだ。こういう光景に出合うと、この星は人類ではなく昆虫類のものだと実感するだろう。 ──仲寒蟬

ゴミ出して無人の街はさはやかに 1点 筑紫磐井
【評】 抑制的なものと季題の促進的な効果が印象に残った。 ──依光正樹

秋そっと自分の影を踏むあそび 3点 望月士郎
【評】 いただいておいて言うのも気が引けますが、「そっと」はなくてもいいかも。 ──仙田洋子

口笛の脆い音程木の実独楽 3点 なつはづき
【評】 木の実独楽も鳴っているか──千寿関屋

無月なり短波ラジオのノイズ愛で 2点 内村恭子
【評】 短波放送は国内放送もあるが、外国からの放送も交じることもある。日本語でないので意味は分からないが時々日本語放送にぶつかることもある。はるかむかし、文化大革命時代の北京放送を聞いたことがある。「紅灯記」「白毛女」等の革命現代京劇を聞いていると、天体望遠鏡で遠い宇宙を覗いているような気がしたものだ。 ──筑紫磐井

雀蛤となる冷凍パスタチンすれば 4点 真矢ひろみ
【評】 そういえば、出されたパスタの蛤は、コクがあって美味しかったけれど、雀だったんですね。 ──渕上信子

曼珠沙華俳句なにごとすくと立つ 1点 堀本吟
【評】 たかが俳句されど俳句...曼珠沙華の前で無になろうとしている作者の心意気が伝わってきます。 ──北川美美

精霊舟知らない人と乗り合はせ 3点 筑紫磐井
【評】 不景気なので精霊舟も乗り合いで…。 ──佐藤りえ

キーボード葡萄を剥きし爪黒く 1点 渕上信子
【評】葡萄を食べることとパソコンに向かうことの境がないような、気ままな暮らしぶりが思われます。わずらわしいこととは無縁な感じに憧れます。 ──前北かおる

コスモスの長距離電話濡れてくる 4点 松下カロ
【評】 コスモスは花や葉がいつも濡れている。長距離電話も長く話すと電話が息で湿ってくる。遙か遠くにいる人と結ぶ電波も濡れているのだろう。 ──篠崎央子

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