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2018年7月6日金曜日

【新連載・黄土眠兎特集】眠兎第1句集『御意』を読みたい9  北京ダックまでは前菜花氷  森本直樹


  北京ダックまでは前菜花氷

 一読して思わず笑ってしまった。北京ダックが出されるまでにいくつもの料理を食べた。そのなかに前菜ではない品も混じっていただろう。しかし、北京ダックが来るや、それらの品は過去のものになり、前菜と同じ扱いになってしまう。季語とも相まって、北京ダックから特別な物という感じが伝わってくる。そして北京ダックを、それこそ目を光らせながら、見詰める人物の姿や人柄も浮かびあがってくる。
 『御意』の中には、この句のように食べ物を詠んだ面白い句が幾つもある。

  啓蟄をさつとゆがきて畑のもの
  カッパ巻しんこ巻春惜しみけり
  朝涼や旅の終はりのハムエッグ


 新鮮な畑のものをさっとゆがいて、いただく。啓蟄との取り合わせが楽しく、地面からぽんぽんと山菜や野菜などが飛び出している姿も想像した。二句目は、安価な巻物の代表格と季語との取り合わせだが、噛みしめるたびに鳴る力強い音が春が終わってやってくる夏のイメージに繋がって面白い。三句目、旅館の朝食では、火を通しすぎてややぱさっとしたハムエッグが高確率で出てくる気がする。家でも簡単に作れるものなのに、なぜか印象に残ったのは旅の終わりの朝食だからか。
 食べ物の句ばかりを取り上げたが、他にも面白い句はたくさんある。

  魚が氷に上がりて貯金増えにけり

 おかしみがある句で好きだ。この増えた貯金も微々たるものかもしれない。しかし、いずれ氷が解けるように、気が付けば魚はどこかにいってしまうように、この貯金も消えて行ってしまうのかもしれない。

  金魚田の金魚や泥に潜りたがる


 水槽の中や祭りの出店で泳ぐ姿しか見たことがない人間にとっては非常に驚きのある句だった。吟行などで、実際にその姿を見なければ作れない力強さがある。

  リアス式海岸に水打ちにけり


 海辺での打ち水の景だろうがこう書かれると、神が波という形でリアス式海岸に打ち水をしているいようにも見えてくる。現実から、どこか、神話のような世界に飛躍する。

  くわりんの実まだ少年に拾はれず

 確かに、少年は落ちているものをよく拾いたがることを考える時、公園などに落ちるかりんの実にとって最も身近な人間は少年かもしれない。拾われないかりんの実に思いを寄せるときのかすかな孤独感が伝わってくる。
 観察の句が多いが、時に発見の力強さが見え、また、虚構の世界との繋がりも見え。一句一句の着地点が非常に多彩だと感じた。

  結論は先に書くべし冬木の芽


 『御意』という句集一冊を通して、書くこと。あるいは俳句を詠むということに一本の筋を通し続けようとする眠兎さんの姿が立ち上がってきた。

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