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2015年1月23日金曜日

上田五千石の句【雪】/しなだしん


いちまいの鋸置けば雪が降る  上田五千石


第二句集『森林』所収。昭和四十四年作。

この句の自註には「雪の上に置かれた鋸、その新しい平面にふりかかる雪」とだけ記されている。

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掲出句は『森林』の第二句目に置かれた句。第一句目は〈雪催松の生傷匂ふなり〉で、共に「雪」の句である。一句目の〈雪催松の生傷匂ふなり〉は、第19回「男」で取り上げた。こちらの句は松の木の写生句であり、作者の感慨も分かりやすい。

掲出の「いちまいの」は、「鋸を置いた」と「雪が降る」の二つの事象が提示されただけで、作者の感慨が見えにくい。以前から気になっていた句だが、自分の中でどう消化すべきか迷っていた句である。

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五千石の句には掲出句のような「けば」もしくは「れば」という、いわゆる“条件表現の接続形”の句が多い。代表句のひとつ〈遠浅の水清ければ桜貝〉(昭三十三『田園』)もそうだ。

掲出句では「鋸を置いた」という条件によって「雪が降る」という結果がもたらされているかのような表現となっている。その点「桜貝」の句では、「水が清い」という条件から「桜貝(がある)」という構図は、原因に対する結果が理解できる範囲にあると云っていい。

つまり、掲出句の「雪が降る」の事象に「鋸置けば」という条件設定が「遠い」のだ。いわば「風が吹けば桶屋が儲かる」のようなもの。

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一方で、これは「条件」ではない、という見方もあるかもしれない。「ば」という接続形には条件というほどの意味はなく、「雪が降る」は取合せ、付合せであるという読みだ。

「桜貝」の句はさて置き、掲出句について言えば、「いちまいの鋸」という、どこか狂気めいたものと「雪」の取合せは、とても危なっかしい綱渡りのような、繊細な感覚の取合せと云える。

この琴線に触れるような取合せは、第一句集『田園』ではみられなかったものだと思う。

掲出句は、五千石にとって、冒険的、実験的な取合せの句だったのかもしれない。


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