◆大空へ刻を積み上げ今年竹 (岡山市)岩崎正子
大串章と稲畑汀子の共選である。清々しい句で、今年竹の季題のイメージそのままである。今年竹の節々が伸びてゆく様子が「積み上げ」てゆくように見えたのだ。「大空へ」という一見漠然とした把握だが、大雑把になっておらずに大空の広さが句を大きくする働きをしている。
「刻」はどういうイメージを表現しようとしているのだろうか?「刻」は一日という時間を基準に算定したものであろうが、どれ程の時間の長さだろうか。(中国では一日昼夜を百分の一にした時間、現在の日本では十五分くらいになろうか)今年竹は数時間で文字通りスクスクと伸びる時期がある。今年竹の一日の内の朝夕の様子の変化に作者が改めて気が付き、驚き感心し、楽しみにしているようだ。
他に稲畑汀子の選に
◆母の日も口を開けば父のこと (大津市)西村千鶴子
がある。選者の評に「三句目。母の日とて父を思う母と知る。」とある。選者は好意的な評を寄せているということが出来る。「口を開けば」という動詞の使い方から、選者は作者が誰か(たぶん母だろうと推測している)を見て、その様子を叙していると解釈したのであろう。
作者の母は、父の話をしている、というのだ。仲の良い両親に作者の心は満たされている、というのだ。しかしながら、中七座五の「口を開けば父のこと」ばかりを話している母は、自分自身がお祝いされたり感謝されたりする「母の日」にもかかわらず、自分のことを顧みずに父のことばかりを話している、という理屈が働いてしまわないだろうか?母親の父親への心の在り方には筆者は共感するのだが、上五の「も」辺りに改善の余地が有るかも知れない。
【執筆者紹介】
- 網野月を(あみの・つきを)
1983年学習院俳句会入会・同年「水明」入会・1997年「水明」同人・1998年現代俳句協会会員(現在研修部会委員)。
成瀬正俊、京極高忠、山本紫黄各氏に師事。
2009年季音賞(所属結社「水明」の賞)受賞。
現在「水明」「面」「鳥羽谷」所属。「Haiquology」代表。
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