90.身のあぶら以て磨くや冬の瘤
「瘤(こぶ)」という文字の病垂れであることから、身体にできる「瘤」であると解することができる。
「虫こぶ」といって、植物組織にできる瘤もある。いずれにしても生きているものにできる瘤であるので、何か不気味である。「はれもの」の総称である「瘤」。「動脈瘤」のそれとも通じるものであるが、「冬の瘤」とは冬になるとできる「はれもの」と解すればよいのだろう。人にできる「瘤」としても「虫こぶ」としてもどちらも冬にできやすいようだ。
けれどもその「瘤」を磨く。哀れむというよりもはれものを愛するのである。それも自らの「あぶら」で。例えば、髪や、爪、歯などの人間の遺物となるものに遺愛があるように、瘤をも愛する我なのである。自分にできた「腫れもの」はどこか愛おしい。
格助詞的用法の「以て」の使用が「身のあぶら」に品格を与えているように思う。文語文体というのはそう簡単には習得できないと思うのは時代の差だけではないだろう。
そして、前句の「山は雪手足をつかぬみどり児に」を受け、室内で過ごすことしかできない厳しい冬の労働の句であると読む。労働による疲労によってできた「瘤」。
家族と過ごし、家族のために、生きてゆくために働く。外の寒さに劣らない室内の寒さ、そしてやるせなさと自己愛が伝わってくる。
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