一応「食」のシリーズは前回で終わった積もりであったが、触れきれない題もあったので追加で加える。
ただしそれらの中には、すでに各回でも言い訳をしておいたが、筆者が若年ゆえ(?!)に説明が十分できない句がまだたくさん残っている。以下については、むしろ読者のご教示を得たい問題提起の句としてご覧いただきたい。その後調べた結果、多少得た不満足な知見も合わせて掲げておく。
また、「食」にかかわるものと、「食」にかかわらないものが混在している題(配給など)もある。はっきり分かるものは、前者を前に、後者を後に示すことにしよう。何が素材であるか分からないものは、そのまま列記する。
【配給】
配給の酒を余さず初胡瓜 現代俳句 21・10 沢木欣一
魚待つ列に北風吹雪となる 太陽系 22・3 西岡美智世
サッカリンの配給あり紅茶沸かしあればまた来し夜のしぐれ 太陽系 22・3 笠原静堂
背に配給の甘藷主婦の糞力 天狼 24・1 田中大
砂糖配給枯野と同色妻の鉢に 風 24・2 金子兜太
霙るるや軽き配給米を下げ 春燈 29・2 岩淵青衣子
歳晩へ烏賊の配給ばかり続く 鼎 田川飛旅子
* *
蔵書売り冬配給の列に入る 太陽系 22・3 長田喜代治
配給の毛布一枚にくるまりぬ 浜 22・4 近藤一鴻
白菊や炭の配給近しと云ふ 曲水 23・3 遠藤一男
配給へ春雨傘をもやひつつ ホトトギス 23・4 北村須起
寒明や糸の配給を少しばかり 曲水 23・4 森本泰陽【供出―供米】
供出の炭重ねあり下萌ゆる ホトトギス 26・8 千納三句※前半が食料、後半が食料品以外である。供出には米はすでに取り上げたのでそれ以外の供出の例句を掲げる。様々なものが配給されたことが分かるが、その意味では代用食の項目と比べてみるとよい。必要なものを作るというのではなく、先ず作ることの出来るものを作り、それを国が供出させ、統制的に配給するという社会主義システムが実現していたのである。
【遅配】
遅配続き十薬の花よごれたり 浜 21・11 堀江杜鵑子
遅配十日白日の砂ただ光る 万緑 22・1 真川孤舟人
遅配欠配の夕蝉の昂りぬ 石楠 22・4/5 杉田以山
日々旱天遅配の日数つもりつつ 俳句研究 22・12 藤田初巳
遅配つづく巷の声のむし暑し 曲水 23・9 橋本竹水居
花桐やトロ押して得し遅配の銭 浜 29・8 高橋草風
【欠配】
欠配十日昼顔の花また咲きぬ 慶大俳句作品集 小川雅夫※配給が遅れること、または中止されることであるが、食糧難と違い切迫感のある句は少ない。
【米高騰】
米価また値上か紫蘇の実やたらこき 氷原帯 28・9 大谷比呂哉
誰が謀る米価騰貴ぞ蟇 鶴 28・9 刈谷敬一【闇値】
屠夫清貧牛肉の闇値かかわりなし 火山系 23・12 京谷保天
風の日に風吹きすさぶ秋刀魚の値 雨覆 石田波郷※配給制度から外れた物資は闇物資となる。すでに闇米は取り上げたのでそれに関連する項目を挙げる。
【外食食堂】
外食食堂凍てて食ふのみの口を持つ 寒雷 28・3 金子洗三※外食はこの時代にどのように可能であったのか。次の寿司屋については、不思議な制度があったことが知られるが、それ以外の外食は一律に禁止され、違法な状態にあったのだろうか。それとも、米などを持ち込むことによって食堂としての形態が成り立ったものであろうか。
【すしの委託加工】
妊る妻にいくばくの米寿司に替ふ 道標 26・4 相沢一羽※昭和22年に法律により飲食業が禁止され寿司屋は表立って営業できなくなったが、1合の米と握り寿司10個を交換する方式を採用し、飲食業でなく委託加工業として営業を認めさせることができたという。
【米を借る】
米借りに渡る吊橋ホトトギス ホトトギス 27・2 中村巨花
明日を喰う米借り帰る大夕焼 氷原帯 27・10 伊藤健志
※「米を借りる」とは単純な貸借関係だけであろうか。制度としてあったのか?、利子は?、給付は米か金か?
【ローブ菌】
批評うるさしや麺麭にはロープ菌 俳句 23・2 山口誓子※土壌菌(納豆菌の一種)の中に「ロープ菌」があり、これがパンに入るとパンの組織を腐敗させて糸を引いた状態にする。一度ロープ菌が入ると長期にわたり施設の使用が不可能になると言う。
【放出物資】
放出の粉団子黄に灌仏会 石楠 22・11/12 細川火城※「放出」の正確な意味はよく分からない。通常は、連合軍が意図的に提供した物資(次のララやユニセフなどからの物資も含む)であるが、旧日本軍の物資が流出したものなどもあった。
【ララ物資】
療園にララの山羊来る草青む 暖流 24・7 大橋晴風※LARA(アジア救援公認団体)が提供した日本向けの援助物資で食糧(牛や山羊などもあったと言われる)や衣料に及んだ。
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