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2013年10月11日金曜日

文体の変化【テーマ:昭和20年代を読む16~食⑤~】/筑紫磐井

前回までは、何とか食も可能な状態だったが、最後に飢餓俳句を掲げることとする。今まで食のディテールを見てきた目からすると、圧巻である。飢餓を正面から歌った句、側面から歌った句と異なるが、殆どの句に心を動かされないわけにはいかない。社会性俳句の本領が出ていると言うことが出来る。社会性俳句がともすれば基地闘争とか、原爆反対とか社会的メッセージを特徴とするように思われるが、生きると言うこと、それを阻害する社会を見据えることに目を向けることが先ず第一歩としてあり、それから内灘を詠み、合掌部落を読むことが続くのだと言うことを理解しておくべきだ。ここには寒雷も、ホトトギスも、浜も、曲水も、太陽系もない人間的な共感を覚えることが出来る、波郷も楸邨も草田男も無名の作家も生き生きしている。「飢ゑと寒さ人は言葉をもてあそぶ」には、現代の俳句には決して見えない思想が存在しているだろう。それが戦争で得た俳句の唯一の財産であったと言うことだ。

今回は贅言も不要と思うので作品だけを列挙する。

【食糧難】

粗食ゆゑにあはれ風邪さへながびくや 冬雁 22 大野林火 
米櫃の底かく音す五月冷え 石楠 23・7 辛崎修羅 
まだ青き稲刈りて食ひつなぐなり 浜 28・2 増田達治 
【飢餓】

飢うる街あかい氷菓に唇よごす 太陽系 21・6 水谷砕壺 
わが重きギリシャ辞典と飢ゑてゐし 太陽系 21・7 小田武雄 
百方に餓鬼うづくまる除夜の鐘 俳句研究 21・7/8 石田波郷 
ひもじさと孤独に耐えて寒燈下 ホトトギス 21・8 山下雨畦 
大き飢の妻の夏痩すさまじき 太陽系 21・9 三保鵠磁 
飢ゑかくす術なかりけり天の川 現代俳句 21・11 志摩芳次郎 
飢餓といふさへ忌々し牡丹活けぬ 現代俳句 21・11 渡辺水巴 
飢ゑしなむてふのみ霜の石また石 寒雷 22・3 加藤楸邨 
飢餓の毛穴黄色冬の陽も黄色 風 22・4 佐々木邦彦 
子等に飢餓なきごと裸婦の額かかげ 現代俳句 22・5 火渡周平 
ひもじさを夕鶯にこらへつつ ホトトギス 23・4 那須ちとせ 
飢ゑと寒さ人は言葉をもてあそぶ 曲水 23・4 吉村芝水 
飢餓ふかしこの飽食の牛を見る 太陽系 23・8 京谷保夫 
鉛筆の屑を炭火にくべて飢う 浜 24・5 中村青螺 
この飢ゑや遠くに山羊と蹴球と 風 29・7 佐藤鬼房 
冬隣芋のつぎ何を食すべきか 早桃 大野林火 
餓鬼となるわが末おもふ夕霞 旦暮 日野草城 
引き据うるわが俳諧や飢餓の前 旦暮 日野草城 
あやめ活けて萎果鶴まで飢幾度 雨覆 石田波郷 
永き日の飢ゑさへも生いくさすな 銀河依然 中村草田男 
飢餓線といふ語うべない焚きけぶらす 野哭 加藤楸邨 

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