【俳句新空間参加の皆様への告知】

【ピックアップ】

2013年8月16日金曜日

平成二十五年 こもろ日盛俳句祭 参加録 1/ 筑紫磐井



【2日目】

日盛り句会は2日目から参加した。くじ引きで当たった山田真砂年(未来図)、対馬康子(天為・麦)両氏と句会場(ベルウィン第2会場)を担当することになる。兼題は登山。

ホッチキス滝はどこまで綴らるる 対馬康子

嘱目・題詠句の多い中でよきにつけ悪しきにつけ観念的な句だ。滝の飛沫をホッチキスに見立てている。イメージはなかなか華麗である。

この句を除いて私の選んだ句は穏やかな句が多かった。私が作って出した句と比べて穏やかすぎると言った人がいるが、虚の句を作り慣れていると、なまじな技巧を凝らした程度の句はあまり感心せず、構成力のある平穏な句を選んでしまうのかもしれない。掲出句は、そんな中では一番虚構的だ。

このあと、宮坂静生・山西雅子・小川軽舟氏と「旧い季語・新しい季語」の題のシンポジウムで司会をする。結構熱した議論となって大成功!

【3日目】

最終日は、高田正子(藍生)、井越芳子(青山)氏と一緒になる(ベルウィン第2会場)。兼題は青林檎。私は披講以後途中で退席。

エンピツになぞる消印青林檎 中嶋夕貴

私の選んだ穏やかな句の一例で特選とした。確かに郵便の消印は消えやすい、だから丹念にそれを読むというのだが、なぜそんなに丹念に読まないといけないのかがこの句のポイント。消印にあるのは、取扱い局と取扱い日付ぐらいであるが、エンピツでなぞる必要がある情報としては、取扱い日付しかないだろう。普通の郵便で日付と時間を確認する必要がある状況はかなり珍しい。ここではある事件があり、その事件が時間と密接に関係すると言うことが大事である。例えば恋愛であれば、現実に出合った時の諍いと、手紙が語っている思いの齟齬が、半日の差で重大な意味を持つ。喧嘩をしてその後書いた手紙なのか、手紙が出されたあとで行った諍いなのか。「手紙」の意味が全く違うことになる。鉛筆で消印をなぞるという事実でなくて、エンピツになぞる「消印」という物を示すことによる微妙な表現も思いを深めさせるだろう。青林檎はそこはかとない哀愁を醸す。

【感想】

5年ほど前、「岳」の記念大会で軽井沢に出かけ、一泊した後、偶然ロビーで出あった俳人たちと吟行句会をやろうと言うことになった。宇多喜代子、大井恒行、高野ムツオ、中西夕紀らであった。耳ざとく聞きつけた「俳句」の編集長が取材して記事にした。

アイスでもホットでもよしレモンティ 筑紫磐井 
夏野菜カレーわけても茄子の紺 宇多喜代子
この記事を「未定」89号の編集長矢口昭氏が口を極めて批判した。「この程度の句をわざわざ天下の大俳句誌に載せることはあるまい」「この徒事のふやけ方はなにごとであろうか」「子規から百年、高濱虚子から数十年経つというのに、一歩も進んでおらぬ」「詠み合う人達も、それを天下に知らせる俳句誌も、おかしくはないか?」。特に宇多喜代子と金子兜太(何故、私でなくて兜太なのかよく分からないが)に意見を求める、そのためのページを開けて反論を待つと言っていたが反論はなかったようである。

句会と言うことで、ふとこのことを思い出した。矢口氏の言っていることも半ば正解であり、ランボーのような独創的かつ文学的な詩は「句会」からは生まれないのだ。真の前衛俳人は句会をやってはいけない、深夜二時、三時、家族の寝静まった部屋で、ノートにむかって孤独に言葉を紡ぐべきなのだ。句会で生まれるのは、題詠か、嘱目か、ふやけた徒事に限られる。これは悪口ではない、「俳句」8月号で<俳句史に輝く名対談>を監修したが、その時、福原麟太郞の「些末事の文学」という発言がいたく気に入って収録した。まさに、俳句は些末事を詠む文学であるからこそ句会をし(「俳句」掲載は本意ではなかったが)、題詠、嘱目、ふやけた徒事(私は「虚子的虚構」というのだが)で事たれりとするのである。ただ、そこからも、文学からかけ離れた傑作が生まれる可能性があることは忘れてはならない。

無季・前衛派(いや人間探究派でも、新興俳句でも、)が句会をやると言うことはどういう意味があるのだろうか。句会とは批評会とは違うはずである。すぐれた俳句を選ぶだけなら、句会のように一同集まったりする必要はない。まして他人の選評を聞くなどということは批評対批評の争いで十分であるべきで、作者を同席させる必要はない。句会は句会の価値観があるのであろう。こもろ日盛り俳句会で我々はそれを見つけることが出来たか。

さて、我々を批判した矢口氏であるが、大冊89号をまとめた直後病気で編集長・同人を辞され、ついに病死した(「未定」92号編集後記)。ご冥福を祈りたい。わずか2年ほど前のことだが、矢口氏のことを覚えている人ももう多くはないだろう。矢口氏存命であったら上記のようなことを質問してみたいと思うのである。


  第五回 こもろ・日盛俳句祭
◇開催日 平成25年8月2日(金)・3日(土)・4日(日)の3日間
◇会場 ベルウィンこもろ
 ・兼題 1日目「雷」 2日目「登山」 3日目「青林檎」
◇句会(120分) 5句出句 5句選句

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