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2013年7月12日金曜日

上田五千石の句【テーマ:赤】/しなだしん

青春のいつかな過ぎて氷水

第一句集『田園』所収。昭和四十年作。
この句の氷水のシロップは「赤」だ。そうは詠われていないが、きっと「赤」だ。

     ◆

こどもの頃、近所の店でかき氷を作ってもらって、“氷”の幟のゆれる店の軒下で食べた。そのときのシロップの定番はやはり「いちご」だった。
その頃のかき氷は「いちご」「メロン」「レモン」の三種類くらいで、あずきはちょっと高くて買えない。そもそもシロップの甘さだけで十分だった。このシロップ、実は着色料が違うだけで味は皆同じ、などいうことは全く知らなかったが、そんなことはどうでもよくて、かき氷は「赤」がやっぱり甘そうで、美味そうだったのだ。

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この句の自註には〈夏季鍛錬会が果てて、この夏も逝こうとしていた。二児の父となっては、青春をとどめようもない〉と記されている。この年五千石三十二歳。たしかに青春はとうに過ぎたといっていい年まわりだ。

二児の子を持ってなお、青春に捕らわれるのはやはり“男”だからだろう。現実的で、現実への対応力の高い女に比べて、幾つになっても現実への対応が出来なかったり、幼児性の消えないのは男だ。

この句では、過ぎ去ってゆく青春の取合せとして「氷水」が詠まれている。
夏は、何をやっても楽しかったこどもの頃の記憶も含めて、過ぎてゆく青春を思わずにいられない季節なのだ。特に男には。

「氷水」は盛夏の象徴で、その甘いシロップは記憶の中にずっと残り続ける味なのかもしれない。

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昭和四十年三月。長男光生誕生。光生は不死男が、春の季語「風光る」「水草生ふ」を組み合わせて付けられた。

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