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2013年7月5日金曜日

文体の変化【テーマ:昭和20年代を読む⑥~年中行事その2~】/筑紫磐井

国民の祝日は如何に決まったか。国民の祝日法の制定に当たって参議院文化委員会で次のように報告されているのを見ると一目瞭然である(昭和23年第2回国会)。

「小川半次委員長:(前略)すでに御承知のごとく、政府はさきに政令をもつて早急に祝祭日を改定しようといたしたのでありますが、われわれは強くこれに反対し、広く民意に徴しつつ愼重にこれを議すべきものとし、われわれ自身の手において、これがための法律案を作成しようといたしたのであります。さいわいにして関係筋においては、このわれわれの意のあるところを了とせられ、時間的猶予を與えられましたことは、まことに感謝感激にたえない次第でありました。かくしてわれわれは、われわれの責任において全力をあげて立案し、これを関係筋にもたらすことこそ、その厚情に報ゆるゆえんであることを痛感いたしました。・・・われわれといたしましても、この間において審議を重ねること二十二回、うち委員会十回、打合会八回、両院合同打合会四回に及び、また正式の会合以外に同僚委がお互いにおいて、終始研究を加えてまいりましたが、特に国民大衆ないし有識者の意向を知り得たことも非常な收穫でありました。 
 ・・・われわれがひそかに誇りといたしますことは、われわれが前後二十二回の委員会、打合会ないし合同打合会を通じまして、終始公開の建前をとりまして、傍聽を希望する向きはことごとくこれを許し、報道方面に対しましても何らの制限を加えなかつたことであります。同僚各位の中には、みずから街頭に立つて大衆とともに新祝祭日を論議檢討した方も少からずあるのでありますが、これは所詮われわれが当初からこの問題を重要視し、国民とともに研究審議を重ねたいとの念願の現われにほかなりません。」

国会の演説では現在滅多に感動しないがこの演説は感動的である。先ず、①政府の取りまとめていた祝日令に与野党一致で反対し、国民の代表である議員自らが起案しようとしたこと、②衆議院・参議院が協議し、且つ徹底した公開の中で討論し成案を得たこと、③案の内容については意見の相違があり委員会で表決でもつてこれを定めたが、敗れた方も多数の意見に欣然同調するということで法案としては全会一致で成立させたこと、である。国民祝日法がそれほど大事な法案であったか、もっと他に議を尽くすべきことがあったのではないかという批判もあり得るだろう。それでも、これらを見ると民主主義の草創期には、今ではあり得ないことが行われ、国民合意が果たされたことに感激を覚える。当今の政治を見るとつくづくこの国の制度が疲労していることを感じざるを得ない。

    *

もちろん検討に当たっては国会も、政府、各省庁の意見を無視したわけではなく、関係各庁から持ち寄ったものから国民の大多数が賛成であろうと推察されるもの9つが有力候補としてあげられた。

【当初の有力案】※傍線のないものは成立した法律で採用されているもの

○新年正月
○紀元節、建国祭、建国記念日、建国の日(2月11日)
○彼岸(春)、彼岸祭、春分祭、春の祭(春分の日)
○天皇節、天皇御誕辰、天皇誕生日(天皇御誕生の日)
○労働祭、労働記念日、メーデー、勤労祭(5月1日)
○彼岸(秋)、彼岸祭、秋分祭(秋分の日)
○憲法祭、憲法記念日、明治節(11月3日)
○新穀祭、収穫祭、新穀感謝の日(11月23日)
○クリスマス、キリスト降誕祭、国際親善日(12月25日)

紀元節、メーデーはともかく、クリスマスまでがあげられていたのは驚かされる。占領下におけるアメリカ従属意識がいかに強かったかという証拠であろう。結局、紀元節、メーデー、クリスマスが削除され、成人の日、憲法記念日、子供の日が追加されたのであるが、候補の段階では11月3日が文化の日ではなく憲法記念日、11月23日が勤労感謝の日ではなく収穫祭であったというのもちょっとした驚きであろう。

参考までに、その他あげられた祝日候補を掲げておく。子供の日は候補になっているが、成人の日、憲法記念日は候補にも挙がっておらず、国会が発議したことになる。またこの過程で現在ほとんど無意味に近く思われている「誓願」が議員を動かして新しい祝日を決める契機となったことも注目してよい。

【その他】※傍線のあるものは成立した法律で採用されているもの

○七草(1月7日)
○節分(立春の日の前日)
○ひな祭、ひなの節句、桃の節句(3月3日)
○こどもの日、児童祭、児童愛護の日(3月3日、4月1日、5月5日、7月7日、11月15日)
○植樹祭、植物の日(4月3日、4月4日)
○花祭、灌仏会、釈迦祭(4月8日)
○婦人の日、女性の日(4月10日)
○招魂祭、追憶の日、うら盆会(8月15日)
○端午の節句、端午祭、しょうぶの節句(5月5日)
○母の日(5月の第2日曜日、皇后御誕生の日)
○動物愛護の日、動物の日(5月28日)
○時の記念日(6月10日)
○七夕、星祭(7月7日)
○盆祭、うら盆(7月15日、8月15日)
○海の記念日、水産の日(7月20日、4月20日)
○重陽、菊の節句(9月9日)
○体育祭(秋季)
○芸術祭(秋季)
○文化祭(月日未定)
○七五三
○平和祭、平和記念日(月日未定)

次回以降では、様々な毀誉があった新しい祝日、特に成人の日、憲法記念日、子供の日、勤労感謝の日を上げてその祝日の議論をたどることとする。

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