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2013年1月18日金曜日

上田五千石の句【テーマ:一】/しなだしん

一葉の便りが通る深雪掻く


第二句集『森林』所収。昭和四十八年作。
この句の自註には〈一月の奥日光は五尺の積雪。岡田日郎紹介の山小舎を訪ねる途次の所見。大雪を掻いたところへ、郵便が来たのだが、それを転倒して詠った〉とある。
五尺というと凡そ1m50cm。まさに大雪と言っていい。

 
自註に名のある岡田日郎は、福田蓼汀の「山火」に拠り、蓼汀没後の平成2年に同誌主宰となる。東京生まれだが、自然詠と山岳俳句で知られ、平成5年「連嶺」で俳人協会賞を受賞している。〈雪原に月光の充ち無きごとし〉など、雪や山の句が多い。日郎は昭和7年生まれで、五千石よりひとつ年上である。

なお、この昭和48年当時五千石は40歳。丁度「畦通信」を発刊した年である。

 
掲句。自註にある通り、大雪の中の郵便配達の景ということだろう。自註の「転倒」は、仏語の正しい理に反すること、の意であろう。

この句で気になるのは中七と下五の動詞〈通る〉〈掻く〉。〈一葉の便りが通る〉と〈深雪掻く〉が並列で置かれたようにも読めるし、〈通る〉は連体系の止めで、〈深雪掻く〉はひとつの季語として置かれているようにも感じられる。

いずれにしても、郵便配達の様子を「一葉の便り」と絞り込んで詠ったことで、ある種のメルヘンのような詩的な仕上がりの一句となった。季語である「深雪」がそのメルヘンを、地方の地場の景として句を落ち着かせている。


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