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【ピックアップ】

2026年1月16日金曜日

【豊里友行句集『地球のリレー』を読みたい】9 「希望」のバトン  宮崎斗士

 少年兵は地球パズルの繋ぎ目

 少年兵たちのひたむきな姿勢とそれに伴う深い憂い、そして平和への切なる祈りが、「地球パズルの繋ぎ目」――地球という星を司り形成していくという。いたく奇抜な詩想ではあるが、作者の戦争、地球との対峙――その視座がくっきりと伝わってきた。


レノンの眼鏡の平和って しゃぼん玉

万華鏡みたいな遺品の眼鏡

 十二月八日は太平洋戦争の開戦日であり、平和を歌ったジョン・レノンの命日でもある。レノンのシンボルでもある眼鏡の万華鏡のような美しさ、そしてしゃぼん玉の輝きと儚さにも似た「平和」のありようを作者は強く訴えている。


原爆ドームは人類の眼球だ

 原爆ドームの形状を眼球に喩えた一句。私はこの眼球を全人類にたった一つの眼球と解釈。その眼球は世界中の戦禍、また核の闇をぐいいっと睨みつけているようだ。


警鐘の眼となる死者の花梯梧

戦争を止める目力木の葉蝶

空蟬の眼は人類の核シェルター

なども「眼」をモチーフとした作品群、各々の「目力」に地球に住む一個人としてあらためて背筋を正される思いがする。


僕らの白シャツのどれも核ボタン

 今着ているシャツのボタンが核のスイッチだったら……。昭和五十一年生まれの作者の平和な健やかな日々に潜む核の恐怖。一歩間違えれば、の地球上にいる確かな実感。


闘争は嫌っでで虫の角がいい

虹の楽譜を独奏かたつむり

渋滞の中の快速かたつむり

こつこつと生きる蝸牛の流星

 句集『地球のリレー』には蝸牛を詠んだ句が多数収載されている。殺伐とした血生臭い闘争より「でで虫の角がいい!」と明るい笑顔の作者、虹の橋を渡る蝸牛に雨上がりの爽やかな旋律を捉える作者、その緩慢なスピードも長い渋滞の中では「快速」に変わり、こつこつと生きる(前進する)健気さに流星の煌めきを汲み取る。


蛙鳴く銀河系の膨張音

蛙鳴くたび星屑のポンプ漕ぐ

惑星の軌道が弾む蛙鳴く

蛙とぶ地球の弦の虹はずむ

蛙の目だけ浮く月面到着

宇宙史のX光年の蛙とぶ

 そして表紙や本文中のパラパラ漫画に頻繁に登場する蛙を詠んだ作品群。蛙と大宇宙との朗らかな交信、何とも快く麗しい。


蒲公英の絮は弾む地球のリレー

ごろんごろん地球のリレーの野菜籠

万物の命が弾む地球のリレー

 句集タイトルでもある「地球のリレー」というフレーズ。蒲公英の絮も瑞々しい野菜たちも「希望」という名のバトンを後世へと繋げているようだ。長きに渡る歴史の変動の中にあって、一つ一つの命の輝きが嬉しい作品群――。そしてこの一冊の句集だった。