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2025年12月12日金曜日

【鑑賞】豊里友行の俳句集の花めぐり 40 『芭蕉三百句』(山本健吉著、1988年刊、河出文庫)を再読する。 豊里友行

 私たちは、松尾芭蕉【まつお ばしょう、寛永21年(1644年)〈月日不明〉- 元禄7年10月12日〈1694年11月28日〉】(ウィキペディアより)が大好きだ。

 和歌の余興の言捨ての滑稽から始まり、滑稽や諧謔を主としていた俳諧を、蕉風と呼ばれる句風との頂(いただき)を確立し、今現在の俳句の祖として海外でも「Haiku」として世界的にも親しまれる。俳句する私も一番、影響を受けている俳人なのだが、俳句鑑賞や論評も沢山あるので私の句集鑑賞としては、のけていたのだが、此処が私の原点になる頂(いただき)であることは間違いないので私なりの俳句鑑賞をしてみたい。

 野ざらしを心に風のしむ身哉 

 旅に病(やん)で夢は枯野をかけ廻(めぐ)る

 せっかくなので沖縄の俳人なりの沖縄の地を舞台に俳句鑑賞を展開してみたい。

 私の俳句鑑賞は、俳句を“なぞる”のではなくもっと自由に鑑賞していきたい。

 野ざらしの野に晒されるままに朽ち果てて骨になる心境とは、なんだろう。その心には、野ざらしの風が染み入るほどの覚悟がある。

 松尾芭蕉は、生涯、俳諧という場(座)で生きた俳人なのだろう。その座において生きながらも芭蕉の心境は、我が身が野ざらしの骨となり、風雨に晒されようとも俳句の独自性を確立させる覚悟を持ち続けた。その覚悟は、後の俳句する人たちの作句にも多大な影響を与え続けている。

 俳諧の座の仲間たちとの交流の旅も病に伏す中で芭蕉の生涯を貫いた夢は、枯野を駆け廻り続けるだけの俳句の熱量だ。

 松尾芭蕉の生きた当時のおおよそ1644年から1694年ごろにかけて和歌の57577の韻律から俳句の575への独立は、今日の私たちが、俳句鑑賞する上でも色褪せることの無い俳句の魂を燈し続けている。

 古池や蛙(かはづ)飛(とび)こむ水のをと

 蛙が飛び込むその瞬間だ。

 古池の水面を割るような水の音が、鳴り響く。

 河の流れのような和歌の作風とは、芭蕉の魂は、何かが違うのだ。

 575の短い韻律には、芭蕉にとっても俳句の宝箱である人生の様々な俳諧の座の心遣いや出会い、風流な季節が織り成す地球の贈り物がある。それら出会いの財産は、芭蕉の心の水面にも沢山たくさん飛び込んで来たのだろう。蛙は、芭蕉の覚悟と俳句への飛翔だ。

 閑(しづか)さや岩にしみ入(いる)蟬の声

 芭蕉もたぶん作句においては、没頭の日々を過ごしてきたのだろう。蟬の声は降りしきる旅の途中なのだが、この時代には、蟬時雨なんて季語もありません。通常ならば降りし切る蟬の声は、暑さと心の喧騒を巻き散らしているはずなのだ。芭蕉の575への没頭ぶりは、まっしぐらに俳句の独自性を確立させるべく俳句1句1句への松尾芭蕉の俳句哲学の物語が展開されていく。閑(しづか)さは、岩に染み込んでいく。芭蕉の俳句への没頭と心の安息は、作句の喜びと自己に向き合い生涯を俳句に捧げた1句1句から垣間見える。

 荒海や佐渡(さど)によこたふ天(あまの)河(がは)

 この俳句を1枚の絵画を愛でるように鑑賞してみよう。

 荒ぶる海は、吼える。佐渡に添い寝するように天河を横たえる。

 「荒海」「佐渡」「天河」の三つの事象が俳句の器へ怒濤のパッションで雪崩れ込み、ピカソの絵画の情熱の断層のように造形力で盛り込まれる。

 夏草や兵(つはもの)共(ども)がゆめの跡

 塚も動け我泣(わがなく)こゑは秋の風

 むざんやな甲(かぶと)の下(した)のきりぎりす

 乱世の世も続くというのに行く道の夏草には、ちらほら野ざらしの髑髏の兵士たちが点在する。その兵士の夢の跡を見出す俳人もまた「夏草」や「きりぎりす」の生命力から生きることに向き合い、戦没者の遺品となる甲(かぶと)や俳友の死と向き合いながら俳句物語を紡ぐ。


 こつこつとですが、俳句の歴史上の俳句集成からも句集鑑賞をしていきたいと思います。

 共鳴句をいただきます。

海くれて鴨(かも)のこゑほのかに白し 

山路(やまぢ)来て何やらゆかしすみれ草 

蓑(みの)虫(むし)の音を聞に来(コ)よ艸の庵(いほ)

旅人と我(わが)名(な)呼ばれん初しぐれ

かたつぶり角(つの)ふりわけよ須磨明石

おもしろうてやがてかなしき鵜(う)舟(ぶね)哉

冬籠りまたよりそはん此(この)はしら

草の戸も住(すみ)替(かは)る代(よ)ぞひなの家

行(ゆく)はるや鳥啼(とりなき)うをの目は泪(なみだ)

あらたうと青葉若葉の日の光

木啄(きつつき)も庵(いほ)はやぶらず夏木立

風流のはじめや奥の田植うた

五月雨(さみだれ)のふり残してや光(ひかり)堂(だう)

蚤(のみ)虱(しらみ)馬の尿(しと)する枕もと

凉さを我(わが)宿(やど)にしてねまる也

さみだれを集(あつめ)て早し最上川

暑き日を海にいれたり最上川

猪(ゐのしし)もともに吹(ふか)るゝ野分(のわき)哉

鎖(ぢやう)あけて月さし入(いれ)よ浮(うき)み堂

有明(ありあけ)もみそかにちかし餅(もち)の音

秋深き隣は何をする人ぞ