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2025年6月13日金曜日

【連載通信】ほたる通信 Ⅲ(58)  ふけとしこ

   放蝶室

むらさきの花屑踏むも夏はじめ

筍のおづおづと出てずいと伸び

夏来たるアダンに棘の鋭き葉

木に木の目石に石の目若葉に雨

新緑や放蝶室の扉押し


・・・

 フェアリーリングのこと。

 十年程前のことになるが、ある公園にウッドチップが敷かれた。そのためかとも思うが茸が沢山生えてきた。

 驚いたのが「狐の絵筆」という名の茸で、しかもフェアリーリングを作っていたのである。フェアリーリングというのは茸が丸く輪になって生えてくることを指す。西洋ではその輪の中で妖精が踊ると言われていて、そのことからこう呼ばれるようになったとのことである。

私がその輪生を実際に見たのは3度。最初が先に書いた狐の絵筆。2度目が法面に生えていた白い茸。名前は知らないが、生えた場所がちょっと悪かったから、綺麗な円形は作れず、歪んだ楕円形であった。   

 3度目は池の傍の草地で、土砂降りの雨の中だった。薄茶色の茸は時間のせいか、雨のせいか分からないが、半分溶けかかっていて、綺麗でもなければ可愛くもなかった。

私が出合ったのは今のところそれだけだが、本来は芝生に多く発生するらしい。造園関係の人やゴルフ場を管理する人には、芝を荒らすとか劣化させるとかの理由で特に嫌われているようだ。私はゴルフ場とは縁の無い暮らしをしてきたから、見ることもなかったのだが……。傷んだ芝を貼り替えたりすると、その土に菌が付着していてどっと生え出すことがあり、リング状になるのだという。

 茸には有毒の物が多いから迂闊に手を出すのは危ないが、シメジの仲間など、食用になる物も結構あるようだ。

 その後、狐の絵筆を見かけたことがあった。竹藪の傍の道を歩いていて偶然見つけた。リングにはなっていなくて、ぽつんぽつんと6,7本ばかりがあった。白い茎が真直ぐ伸びて先の方が鮮やかな紅色。天辺が黒に近い緑茶色をしている。そこに小さな虫がたかっている。一本折ってみようと手を出したら強烈な悪臭! この臭いを出している黒っぽい部分はクレバと呼ばれ、虫を誘って胞子を運ばせるための臭いを発するのだという。

 先端の紅色から絵筆との名前が付いたようだが、何故、キツネなのだろう?

 今度見かけたらちゃんと写真に撮っておこうと思うが、町中に住んでいると、なかなか出会えない。しかも時間が経つとぐずぐずに溶けてしまうから、朝の内でないと奇麗な形の物には会えない。

  白茸のフェアリーリング夏至の月 井池恭子

(2024・5)