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2024年10月11日金曜日

■連載【抜粋】〈俳句四季8月号〉俳壇観測260 鷹羽狩行の晩年——『十九路』『二十山』を読む 筑紫磐井

 鷹羽狩行の29年以降

 鷹羽狩行が5月27日逝去した。享年93であった。この2~3年表舞台に姿を現さなかったから、正に不意打ちのような報せであった。念のために鷹羽狩行の略歴を掲げておく。


【略歴】昭和5年10月5日 、山形県出身。本名・髙橋行雄。山口誓子と秋元不死男に師事。第1句集「誕生」で俳人協会賞、その後芸術選奨文部大臣新人賞、毎日芸術賞、蛇笏賞、詩歌文学館賞、日本藝術院賞等を受賞。毎日俳壇選者、日本芸術院会員。平成14年年、俳人協会の会長に就任、29年に俳人協会名誉会長に。30年には「狩」を終刊し、31年に「香雨」の名誉主宰に就任した。


 正に眩いばかりの俳歴だ。恐らく総合誌が今後一斉に追悼特集を組むであろうが、このコラムでは晩年の鷹羽狩行について語ってみたい。

 鷹羽狩行が40年続けた「狩」を終刊する決意を決めたのは平成29年のことである。29年3月俳人協会会長を退任し、名誉会長に就任する。29年12月号で、「狩」の終刊を告げ、後継雑誌に片山由美子の「香雨」が創刊され、狩行はその名誉主宰となる旨を述べる。

 以後、終刊に向けての準備は着々と進む。明けて30年1月には歌会始の召人として出席、俳人協会総会で功労賞を受賞。第18句集である『十八公』も刊行した。後継者の片山由美子は30年4月に毎日俳壇の選者に就任する。しかし、狩行が毎日俳壇の選者を辞退した訳ではない。師弟が同時に同一新聞俳壇の選者を勤めるのは、朝日俳壇の加藤楸邨、金子兜太以来の珍しいことだ。そして9月「狩」40周年大会を生地山形県で開催。そして30年12月、「狩」を終刊させ、別冊『狩の歩み40年』を刊行。この間、新しい俳句シリーズ「十九路」を発表し続ける。

 31年1月に片山由美子主宰雑誌「香雨」が創刊され、鷹羽は名誉主宰に就任する。「香雨」の選や運営は当然片山由美子が行うが、鷹羽は「香雨」に席を置いてかなり自由な活動を始める。

 「香雨」の創刊時の鷹羽狩行の活動は次の通り予告されていた。

①「二十山」の連載開始

②「甘露集・白雨集・清雨集抄」(香雨同人作品)の抽出

③地方句会の指導

   (中略)

 しかし令和2年となるとコロナの感染が拡大し、地方句会の指導のみならず「香雨」の句会さえ開けない状態が続く。狩行の活動が定かに見えなくなり、「香雨」10月号で「鷹羽狩行名誉主宰の90歳を祝して」と言う特集で、片山・橋本美代子・有馬朗人・高橋睦郎の祝辞が掲載されているくらいである。そして、12月には四十年務めてきた毎日俳壇選者を辞退することとなった。

 令和3年1月から、「二十山」の作品は新作でなく、「俳句」令和2年12月発表作品を分載することとなり、それも8月号から休載することとなった。「甘露集・白雨集・清雨集抄」も12月号で連載を休止することとなった。4年1月号で片山由美子は「名誉主宰による「甘露集・白雨集・清雨集抄」は、先生のご負担が大きいため終了といたしました」と結んでいる。「休載」ではなくて「終了」と言うところに少しくらい雰囲気が漂う。

 6年1月号で鷹羽狩行名誉主宰が参加する本部句会そのものを(コロナ以来休止となっていたが)廃止することとなった。

 こんな中で6年5月を迎えることになった。死因が老衰と聞いて、これほど狩行に相応しくない病名はないように思った。いつまで経っても狩行は永遠の青年の明るさで生きているように思ったからだ。

   

鷹羽狩行最終句集

 ここで、鷹羽狩行の最晩年の作品を紹介しておこう。狩行は『誕生』『遠岸』『平遠』『月歩抄』以後の句集の題名に『五行』のように数字をいれたナンバリング句集として刊行しており、『十六夜』までを『鷹羽狩行俳句集成』(29年6月ふらんす堂刊)に収録して刊行した。『俳句集成』刊行以後も『十七恩』『十八公』を刊行している。従って、「狩」に掲載したままとなっている、『十九路』『二十山』となるべき残余作品は未だ刊行されていない。ここでは他誌に先がけて幻の「十九路」「二十山」を紹介しておこう(△は「俳句」令和2年12月発表作品を転載)。


「十九路」

散りやすく固まりやすき初雀(28.1)

ものの芽やもの書きはもの書いてこそ(28.4)

この世の香かの世の香とも黴の花(28.7)

麦秋へ降下はじまるわが機影(28.9)

鶏闘のすたれたる世に戦なほ(29.3)

富士といふ大三角や茶摘唄(29.4)

「かなかなの声も入れて」とカメラマン(29.8)

世に別れ蚊帳の別れもその一つ(29.10)

はじめ終りをあいまいに春の風邪(30.1)

滴りとしたたりの間のかくしづか(30.6)

走馬灯止まるとみせてより止まる(30.7)

縁談のととのふけはひ青すだれ(30.8)

もういちど開く扇をたたむため(30.9)

賀状書き終へかるくなる住所録(30.12)

「二十山」

数にわれ入れ忘れたる笹粽(令和元.5)

夕立のいさぎよさこそわれに欲し(元.7)

太陽が遠足の列待つてゐた(2.5)

流灯の数一千として詠みぬ(2.8)

冬耕の二人と見しは一人なり(2.11)

十二月八日の未明かく閑か(2.12)

椿落ちはじめたちまち数しれず(3.2△)

ともし灯をひとつふやして年守る(3.7△)