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2022年5月13日金曜日

北川美美俳句全集 16

●面110 巻頭44句「魚の目」 2010年5月1日


蛇衣を脱ぎすてカテーテル開く

古電灯ひっくり返って夏野かな

蟻の巣をみていた少女の物語

教会の向日葵の首おもかりき

またしても向日葵畑に行き着けず

蓮根やアジアの泥で息をする

胡桃の実脳内いくつも扉あり

いつか鳴る硝子の中の銀の鈴

山本紫黄眠る駒込吉祥寺 順天堂大学供養等にて     

逆光の塔に声なし冬桜

しぐるるや母は無言でミシン踏む

咳き込めば背中は広き野となりし

冬晴や親指と人差し指で丸

月せまる窓ふる里の大晦日

花びら餅牛蒡の雅しめやかに

寝積や腸ゆっくりかたよれり

人類がつぶやきだせばぽっぺん吹く

ひとときがくりかえされて春めける

いきもののまなこ可愛や春の立つ

いきものがいきものに触れひこばえる

アスパラガス光を忘れ白くなる

春昼や診察台から巴里の写真

人体の魔法とけだし春眠し

憂いとは曇天に舞う黒揚羽

恋多き友に聞き入る端居かな

三伏や左回りの壁時計

七日目の子猫にミルク飯饐える

丸盆に置けば西瓜の重さ増す

海べりの日傘の影と男かな

赤道を知らぬ男とバナナ食ぶ

十一月とてもさびしい夜のジャズ

嚔して卵にひびが入ったか

風花やあなたのそばにきて消える

冬の田に子は十の字に抱かれをり

毛皮脱ぐ空気の薄い録音室

正門に二丁目の人冬薔薇

くらがりに釣竿のある寒暮かな

遠山の赤城の山の雪もよい

危ないと知りつつ生まれ春の蝿

春の夜誰もとめない警報機

適温を唇で知るバレンタインの日

不機嫌な人がとなりで山椒の芽

鐘霞つぶることなき魚の目

死してなお一途な恋あり春怒涛

二十八歯失う日あり敗戦日

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