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2022年5月13日金曜日

英国Haiku便り [in Japan] (30)  小野裕三


「俳フル」とhaikuのハイブリッド化

 十月の第一木曜日は、英国では「ナショナル・ポエトリー・デー」(「国民の詩の日」という感じか)とされ、詩のイベントや催しが学校・図書館などで展開される。その告知サイトを見ると、今年の全国的な催し物のひとつとしてhaiku関連のものがあった。その名称は、プロジェクト「ハイフル(haiflu)」。ハイは俳句の俳から来ているので、「俳フル」とも書けそうだ。その定義はこうだ。

 《世界的なパンデミックの中で書かれたhaiku(5.7.5の音節からなる3行)で、しばしば同じ週に撮られた写真とともに提示される》

 多くの人がある週に作ったhaikuと、その同じ週に撮られた写真。それらを組み合わせ、音楽をつけて動画にし、ネット上で公開する。写真もhaikuもどちらかの添え物ではなく、この合成が「新しい何か」を作り出すことを意図する。

 これが始まったのは、2020年のことだ。コロナ拡大で英国全土がロックダウンされた3月、リヴ・トーク(Liv Torc)という女性詩人がネットで多くの人に呼びかけ、そんな環境での一人一人の思いをhaikuにして送ってもらった。たくさん集まると、それが全体としてリアルな物語になると彼女は気づいた(*1)。それに写真・音楽を加えて動画化すると、ある種の時代証言としての生々しく共有された人々の感情・感覚がそこに現れた。その手法を彼女は「俳フル」と名づけた。


Hidden by a mask / an instinctive smile, I hope / still has some meaning

 マスクの下でも / 本能的に笑う、それが / まだ何か意味を持つと信じて

Queuing at Sainsbury’s / quick chat at a distance / surrounded by blue

 セインズベリー(スーパーの店名)で列に並び / 距離を空けて短い会話 / 青い色に囲まれて


 興味深いことに、彼女は詩人ではあっても特にそれまでhaikuに熱心だったわけでもないし、彼女の「俳フル」紹介ビデオでは、haikuが日本に出自を持つことや日本の俳人や句のことも言及されていない。それでも、「立ち止まり、観察し、感じたままを書け」という彼女の指南は、日本の俳句の本質にも添う。

 そんな事実は、俳句がその本質を引き継ぎながらhaikuとなり、もはや英国文化に溶け込んでいることを示すようだ。「俳フル」はその手法が面白いだけではない。現代の英国文化が、haiku形式を取り入れつつもそれを超えて遊び心と創意に充ちた新しい表現スタイルを生もうとする、その文化的ダイナミズムが面白い。広く世界に普及したhaikuはもはや定着の段階を超えて、各国の文化環境と溶け合いながらハイブリッド化して新しいスタイルを作り出す、そんなステージに入っているのでは、とも思えた。

*1 「DruidCast」のインタビュー/※写真や俳句はNational Poetry Dayのウェブサイトより引用。

(『海原』2021年12月号より転載)

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