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2021年8月13日金曜日

【中村猛虎第一句集『紅の挽歌』を読みたい】21 中村猛虎句集「紅の挽歌」より20句  中嶋常治(姫路青門会長)

 「モノローグ」 より

秋の虹なんと真白き診断書

寒紅を引きて整う死化粧

鏡台にウイッグ遺る暮の秋

モルヒネの注入ボタン水の秋

 私の義妹も多臓器癌で亡くなった。強い女性で最後まで痛みに耐え、モルヒネを拒否し続けた。しかし亡くなる前の三日ほどは家族との面会も嫌がった。桜の散る頃であった。殆ど意識のない中で何かを語ろうとしていた姿が目に浮かぶ。

「遠い日の憧憬」 より

少年のどこを切っても草いきれ

この空の蒼さはどうだ原爆忌

部屋中に僕に指紋のある寒さ

春月へ飛び立つ角度人力車

右利きの案山子が圧倒的多数

 案山子を見て右利きか左利きかは判らない。案山子を作る人は多分大方が右利きであることから、 案山子も右利きが多いだろうと作者は推測した。大雑把にして繊細な発想と表現が詠われている

「家族の欠片」 より

卵子まで泳ぎ着けない十二月

 少子化に関連して、最近精子の少ない男性が増加しているという。昔は「三年子なきは…」などと女性に不妊の責任を押し付けたが、男性にも責任があったことになる。原因は男性の女性化かストレスなのかは分らない、要は鳥取県の人口程が毎年減少していると言う事

亡き父の基盤の沈む冬畳

犬ふぐり母は呪文で傷治す

夏帽の少年走る走る走る

「左手の記憶」 より

ひとりずつカブセルにいて花の雨

秋給生涯抱きし女の数

  作者の願望であろうか、それとも…。抱きたいと思う女性はいても実現するにはためらいがある。不倫のニュースがテレビを賑わす昨今。行動には制約がある。しかし気持は分る

キウイに種あり人の妻といる

桃を剥く背中にたくさんの卸

「さよならの残像」 より

水撒けば人の形の終戦日

「前世の遺言」 より

父の日の父はりがねむしの孤独

ポケットに妻の骨あり春の虹

 ポケットの中に小さなカプセルに入った妻の骨が納められている。「生涯おまえだけ」 という意思が感じられる。春の虹もロマンチックでよい

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