【俳句新空間参加の皆様への告知】

【ピックアップ】

2021年7月23日金曜日

第14回皐月句会(6月)[速報]

投句〆切 6/11 (金) 

選句〆切 6/21 (月) 


(5点句以上)

10点句

箱庭に幸福なひと立たせたり(渕上信子)

【評】 秘なる水脈暴露されたる心地して良いではないかこれもまた夢──真矢ひろみ


8点句

黄金虫落ち一粒の夜がある(渡部有紀子)

【評】  「一粒の夜がある」の孤愁に惹かれた。黄金虫が床に落ちた時の乾いた音を「一粒」といい留めたところが良い。

結句を「がある」で止める俳句型式で、真っ先に思い浮かぶのが、「水枕ガバリと寒い海がある」(西東三鬼)があるが、こちらは病床の幻視。ほかにも「洪水に身を現わせる魚がある」(安井浩司)、「昼顔のさすらいやまぬ足がある」(鳴戸奈菜)、「はなみづき空にはやはり顔がある」(川崎展宏)など。型のよろしさ、がある。──飯田冬眞


7点句

ばらずしや峠を夕立の走る(小林かんな)


片蔭に寄せてあるなり供花の束(仲寒蟬)

【評】  これから墓参に向かうのでしょうか。暑いある日中の照り付ける日差しを片蔭が伝えています──小沢麻結

【評】 炎天下、塀に沿ってできる日陰。そこには墓参りに行くための供花の束が寄せてあり、作者も炎昼の墓参に迷いが生じている様子も伺えます。──松代忠博


捕虫網かぶせるための弟欲し(望月士郎)

【評】 きょうだい(兄弟、姉妹)がいればこういう戯れもするだろう。意味はないし些細なことなのだが「ああ、きょうだいやってるな」と思える瞬間かもしれない。それにしてもこの悪ふざけを「かぶせるための」とまるで大切な目的のように書いたところが大袈裟で滑稽だ。──仲寒蟬

【評】 記憶の中に…、ある悪戯!調子に乗り父親も、途端に「こらっ!」ぽかっと‼、叱られてよかった。叱られてなかったら…、怖い‼──夏木久

【評】 単純な「弟欲し」ではなくて、「捕虫網かぶせるため」であるところが面白い。捕虫網は虫を捕らえても面白くなく、人間を捕らえる句が多い。「捕虫網買ひ父が先づ捕らへらる」(能村登四郎)などもあり、やや類想性があるが、弟のいない作者であるとすれば、こうした弟を持っている友人や親戚などをうらやましく思っている感じはわからなくはない。というよりは、むしろ作者が老境にあると考えた方がしみじみとした実感が伝わってくる。弟というものを生涯持ちえなかった寂しさは、年を取った方がよりつのるだろう。──筑紫磐井

【評】 いないはずの弟がまるで遠い思い出の弟のように描いた不思議な句──依光正樹


6点句

いま昭和から戻ったところ昼寝覚(山本敏倖)


5点句

ファールボールなかなか落ちてこない夏(佐藤りえ)


夏帯や火星にも川あるらしく(松下カロ)

【評】 さらさらとした手触りの夏帯と火星の地表に残る川の跡。夏帯にも川を思わせる模様が描かれていたのだろう。夏帯を締めながら火星の川のことを考えていることに意表を突かれた。──篠崎央子



(選評若干)

老鶯や書庫の窓開け放たれて 4点 内村恭子

【評】 別荘の曝書、みたいな情景を思い浮かべました。──佐藤りえ


肘に触れ生乾きなる蛇の衣 2点 仲寒蟬

【評】 「肘に」「生乾き」と言ったことで、冷やっとした感触がリアルに感じられました。経験したことはありませんが、一瞬びくっとしたのが伝わってきます。──前北かおる


熱帯魚タワーマンションのこども達 2点 近江文代

【評】 タワーマンションが巨大水槽だ。その閉じた立方体から放たれてくる得も言われぬキラキラ感が怖い。メトロファルスの「消息不明の子供達」を思い出した。──依光陽子


水中花捨てた記憶の底に咲く 4点 田中葉月

【評】 いろいろあったなあ。あれも愛これも愛、今はみんな生き〳〵と死んでいる・・・──渕上信子


茄子くれし父をゴルフに誘ひけり 2点 前北かおる

【評】 父とのやわらかい繋がり。『掌をかざす』(小川軽舟)を思い出しました。──渕上信子


輪廻転生ときどきは牛蛙 3点 仙田洋子

【評】 「ときどきは牛蛙」というのが、面白いです。──水岩瞳


父の日の父のもぐもぐしてゐたる 4点 仙田洋子

【評】 何かを咀嚼しているもぐもぐが散文的に普通のもぐもぐなのだけど、高齢になるとそうではないもぐもぐもままあって、それは別に何の日だからするということもないもぐもぐなのだが、父の日の父にしかできない類いのもぐもぐであることよ。──妹尾健太郎


よひらよひらよひらくべくしてこのよ 4点 妹尾健太郎

【評】 読みつつふと摑みそこねるような感じがありました。紫陽花の花の密生を見つめていて、不意に焦点を失ってしまったときのようです。──青木百舌鳥

【評】 よで始まって、よで終わる。この意味よりもあえてリズムに乗れるかどうかで、評価が分かれよう。ひらがな書きがよひらをあじさいよりも、ひらくべくこの世の別のイメージを誘う。──山本敏倖

【評】 高度な言葉遊びの楽しさと、意味のラインを追っていったときの、いきなりの転調の凄み。──望月士郎


蕗のあく抜けて余白のあをみゆく 3点 真矢ひろみ

【評】 蕗のあく抜き。本体から抜けたその「あく」にも質量があり、それは消滅ではなく、別のどこかに染み込んでいるわけです。エネルギー不滅の法則ではないけれど、手つかずの領域がしだいに染まっていく。「余白」があるから、汚れたものでもまだ純粋さへの希望が持てるんだ、とあらためて気が付きます。「余白」を比喩として読むと、その部分がうすめられた「あく」で「あをみゆく」のです。あまり考えなかったことだけに、この進行状態が不気味です。この句は、巧みな出来上がりです。──堀本吟

【評】 蕗のあくが抜けると段々と青みがまします。作者は余白の部分が色を増すことに着目。その茹で上がった蕗は料理され食卓を賑わすことになります。──松代忠博

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