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2021年1月8日金曜日

【中西夕紀第四句集『くれなゐ』を読みたい】9 句集「くれなゐ」を読んで  桜木七海

 中西先生のもとで勉強を始めて早や十二年の歳月が過ぎた。今回の「くれない」は先生が満を持して出された意欲的な句集だと思います。テーマ別の章立てがそれを物語っているのですから。「青嵐」では季節ごとに色が見え「桐筥」の発想には柔軟さが伴い「野守」「緑陰」の旅吟にあっても人生を凝視する姿勢を感じます。「墨書」における鎮魂の圧巻、思い入れの激しさをしみじみと感じ、最終章「冬日」の平明さ、穏やかさ。各章を貫いているのは先生の現在の立ち位置の確かさではないだろうか。冷静に対照に真向かう真摯な眼からは、きっぱりとした一句が生み出され続けることでしょう。そして季語。季語が一句の中で自然体で使われ、それが一句をより引き立てているというとらえ方の上手さ。その詩心に惹かれます。そういえば先生は、季語の選び方によって作者の度量が分かるということを、句会で度々口にされるのです。
 10月30日の松野苑子さんの文章が忘れられません。傾向の異なる二人の師から学んだ夕紀俳句が、これからも深く耕され、二つの土壌が芳醇な実りをもたらすだろうという言葉に深い感銘を受けました。これこそが「くれない」の真髄であり自信ではないかと思っております。
 好きな句を5句選びました。

 花びらの水くぐらせて魚捌く

 「花びらの水」のひとことで魚屋の店先に置かれた水桶のきらめきが見えてきます。大きな桜の木があるのでしょう。花吹雪が店の中にも入ってきます・一枚のがっしりした俎板で魚をさばく主の鮮やかな手の動き。花びらの浮いた水をさっと流す。捌いているのはきっと黒鯛。

 逢ふよりも文に認め西行忌

 芭蕉は西行を崇拝し、その500回忌にあたる元禄二年に奥の細道の旅へ出立
したと言われています。厖大な西行の和歌を思う時「文に認め」が納得できるし何よりも便箋に文字を書く日常でいたい。

 桐筥に涼しく納め藩政誌

 江戸時代の大名の領地、藩。そのまつりごとを記録したのが藩政誌。例えば戊辰戦争の時には東北の諸藩が結んだ反維新政府同盟の記録や領民の一揆もあっただろう。「桐筥」に「涼しく」納まったことで、その後の安泰の様子にホッとする。

 「序の舞」といふ絵に戻り涼みけり

 序の舞といえば勿論、上村松園の不朽の名作。能の仕舞のひとつ序の舞を舞う女性を描いています。凛とした表情や姿勢からは松園が理想とした「女性の姿」を描ききっていると言われています。晴れやかな大振袖がくれなゐ色なのに、その凛とした緊張感が涼しさを運んでくるのです。

 日の没りし後のくれなゐ冬の山

 松園の画像が残っています。誰に媚びることのない立ち姿。句集最後の一句にこめられた先生の深い想いが感じられることを幸せに思います。

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