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2019年2月8日金曜日

【葉月第1句集『子音』を読みたい】4 田中葉月句集「子音(しおん)」  矢田わかな


 「子音」がふらんす堂第一句集シリーズ/1として出版された。一ページ四句のペーパーバックと手軽ながら裏表紙には顔写真がしっかりと入って、センスのよさが光る装丁。
 序文で秦夕美氏が句集名「子音」について、掘り下げた考察をされている。
 ところで、田中葉月さんと私は俳句のはじめの一歩から今日まで、同じ年月を経てきた間柄だ。ある生涯学習センターのサテライト組織でいくつかの自主講座作りをすすめていた時、面識もさしてない秦氏に「俳句講座」を打診した。「句歴は長いが人に教えたことも、教える気もない」とのことだったけれど、幸いにも俳句の一歩からの句会を引き受けてくださり六年ほど続いた。葉月さんは当初から俳句への情熱が際立っていた。その後私どもは別の句会に移り、改めて一歩からの九州俳句作家協会会員に、続いて葉月さんは「豈」同人となり現代俳句の王道を足早に進んでいる。

 さつきですめいですおたまじゃくしです
 真珠色の声のころがる花はちす
 南瓜煮るふつつかものにございます


 葉月さんの俳句は明るい。自身が営々と築きあげた、幸せな家庭環境からにじみ出る明晰な底力。諦観や抒情を詠んでも明るい方へ落ち着くのは多分無意識なのだろう。

 もう一度だつこしてパパ桜貝
 とりあへずグッドデザイン賞天道虫
 この辺り鳥獣戯画のクリスマス
 草紅葉甘えのベクトル持て余し
 ゴスペルや水底の冬浮いてくる


 225句のうち57句にカタカナ表記がある。カナ文字の風通しの良さ、発音から連想する異国への憧憬、読む者は二つの言語の意味あいに遊ぶ。句集名にもこれが活用されており、秦氏は序文でそれを、「しおん」と詠めば、シオンはエルサレムそのものでありまた聖地、ノートルダム寺院の地などいくつもの地名につながると解説している。

 葱白し七つの大罪ほぼ犯し
 鍵穴を無数の蝶の飛び立ちぬ
 ひそひそと夜ごと鞄に月明かり


 言葉からことばへのリンクが多方面でそこから詩を結実させる感性。飛ばし方は遠く近く融通無碍である。理屈より感性を信じて句作の拠りどころとしている。

 啓蟄やゆるり起き出す兵馬俑


 八千体といわれる兵馬俑が中国の大地を一斉に行進。AIの世界、動く世界遺産。

 銃口は風の隙間に鶏頭花

 人間は残虐さを奥深く閉じ込めている生き物なのだろう。戦場ではその重い扉を開ける。鶏頭花は訓練に丁度良いターゲットか。

 その風に抱かれてみたい仏手柑

 仏手柑の幹には棘があり果実の下端は裂けているらしい。近寄りがたい形相の故に仏の手。ならば誰もが抱かれてみたい。

 八月をぽろぽろ零す缶ドロップ

野坂昭如原作、高畠勲監督の「火垂るの墓」を彩る缶入りドロップ。幾ばくの経験もしないままに命が消える幼子のまっすぐな瞳が甦り平和の尊さをまたかみしめる。

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