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2018年12月7日金曜日

【麻乃第2句集『るん』を読みたい】5  無題  五島高資


  天道虫流されてゐる交差点  辻村麻乃

 ユークリッド幾何学における「点」は、位置以外のあらゆる要素を有しない。もっとも、実際の交通における交差点は、道路と道路が重なってできる一定の平面や面積などを持つゆえ、厳密な「点」ではない。もちろん、掲句における交差点は道路上の交差点と思われるが、それでもなお、ユークリッド幾何学における実体のない無限定な「点」を思い合わせると、天道虫が神の配剤にて邂逅するエトワスを想像せざるを得ない。
 さらには天道虫の「天」と交差点の「点」という音韻的効果、さらには天道虫の羽にある「点」とも共鳴して不思議な時空がそこに流れているように感じられる。それは人と人との出会いであったり、偶然な出来事だったり、あるいは、それによって重大な結果をもたらした、あるいは、これからもたらされる可能性としての象徴かもしれない。ふだん何気なく使っている言葉が言葉を超える瞬間でもある。
 いずれにしても、実景を超えて見えてくる様々な光景に「物の見えたる光」を言い留めた高次の詩境がそこに感じられる。そこではもはや天道虫も作者も一体化した物我一如の精神もうかがわれる。まさに至境の一句と言えるかも知れない。 

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