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2018年8月25日土曜日

【新連載・黄土眠兎特集】眠兎第1句集『御意』を読みたい12 仲間たちへ  三木基史

御降や靑竹に汲む京の酒
鳥の巣や図面にはなき隱し部屋


  藤田湘子は一流志向だった。当然のごとく「鷹」は一流の俳句結社でなければならなかった。「鷹」の目指す一流の俳句結社とはどのようなものか。そのヒントを小川軽舟の言葉の中に求めた。すると、二つの手掛かりを見つけた。韻律として格調の高い作品を生み出す作者を育てる場であること、そして結社として幅広い許容力を持つことだ。

まだ熱き灰の上にも雪降れり
アマリリス御意とメールを返しおく
押し黙る子を抱きしめよ月今宵
大年の花屋は水を流しけり


 P.F.ドラッカーのマネジメント理論ではパラレルキャリアの重要性が説かれている。個人が特定の組織に過度に依存せず、組織外でも活動すること(パラレルキャリア)によって、そこで得た経験が個人の人生を豊かにし、結果的に主たる組織にも還元される効果があるのだとか。黄土眠兎にとって「里」というやんちゃな遊び場はパラレルキャリアそのもの。そんな彼女の存在は「鷹」の許容範囲を広げ、一流の結社たらしめることに僅かでも寄与しているのではないだろうか。

紙漉の男の名刺厚きかな
昨日より足跡多き結氷湖
オリーブの花咲く店のAランチ
蜘蛛の囲にかかつてばかりゐる人よ
わが影に西瓜の種を吐き捨てぬ


 著者はとても身近な仲間たちを読者と想定して「御意」をまとめている。師の選を追求して極めるほどの気負いは無さそうだ。俳句創作の心構えのひとつでもある「ものをよく見る姿勢」というよりも、小さなことが気になって(見つけて)しまう損な性格のように感じられた。これは気配りの延長。

髪洗ふ今日は根つから楽天家
大陸横断鉄道渾身の星月夜
あつぱれや古道具屋の熊の皮
でこぽんのでこぽん頭から剝きぬ


 句集前半の作品からどことなく漂う危うさは、後半に向けて力強く変化してゆく。紡ぎだす言葉は月曜日の朝の気だるさも金曜日の夜の解放感も内包しながら、定型の中で縦横無尽に飛び跳ねる楽しさを覚えた兎。どのような表現も、どのようなこだわりも受け入れてくれる仲間たちへの「御意」なのだ。その他の共鳴句も挙げておきたい。

初刷は十のニュースを以て足る
子の息を吸ふ窓ガラス冬満月
冬帽を被り棺の底なりき
紙飛行機雛のまへを折り返す
かごめかごめ櫻吹雪が人さらふ
菜の花が八百屋に咲いてしまいけり
丸洗ひされ猫の子は家猫に
夏兆す木工ボンド透明に
さばさばと芽の輪潜りてゆきにけり
くわりんの実まだ少年に拾はれず
船旅に地酒一本鬼貫忌
円窓に月を呼び込むための椅子


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