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2018年5月25日金曜日

【新連載・黄土眠兎特集】眠兎第1句集『御意』を読みたい6 御意てっ! 仲田陽子

 関西人の日常会話の中では漫才でいうところのボケとツッコミが存在する。分類するならば眠兎さんはツッコミの人で、うかうかしていると「そこ!突っ込むとこなっ!」とダメ出しされることが多々ある。
 そんな眠兎さんの処女句集のタイトルが『御意』。。。いきなり全力でボケてきた!と思った。
 「読んで面白い句集にしたい!」という意気込みは聞いていたし、速水御舟の装画に活版印刷のこだわりも、サービス精神旺盛な彼女のことであるから・・・と期待値は自と高まる。

 漫才の要素にはネタフリ、ボケ、ツッコミ、オチの分類ができる。一頁二句立て、見開き四句、章立てごと、句集全体へとバランスを保ちつつネタフリからオチまで構成されている。そしてツッコミどころの多い句、いわゆるボケの句に佳句が多かったように思う。

朝寝して鳥のことばが少しわかる

 この朝寝は一見とても気持ちがいい句だ。だけどどうだろう?何を言ってるのかがやたら理解できるとなると、うるさくってしかたない。鳥のことばは少しわかるくらいで調度いいのだ。いや、少しわかるともううるさいのだ。

アマリリス御意とメールを返しおく

 この句集タイトルはこの一句から。何度も「御意てっ!」と突っ込みたくなる。
LINEなどで既読だけではなんとなく愛想がないときの、承知した旨をスタンプで返すような軽さ。アマリリスの花の明るさに相手との関係性がうかがえる。

うかうかとジャグジーにゐる春の暮
カッパ巻しんこ巻春惜しみけり


 他人のうかうかを突っ込む眠兎さんが「うかうかとジャグジーに」浮いていたり「カッパ巻しんこ巻」の緑と黄色で春を惜しんでみたりとボケにボケをやんわりと重ねてくる。あかねさすの章の余韻の残し方がオチとして絶妙だ。

 『里』の句会でお会いするから、うっかり忘れそうになるけれど、眠兎さんは『鷹』に所属されている。
 さすが抒情の系譜に繋がるだけあって、抒情たっぷりな句も多く見られる。なのにここでも見開き四句でボケとツッコミを美しく成立させている。

円窓に月を呼び込むための椅子
大根が首だしてくる月夜かな
満月が地球を重くしてをりぬ
細波のとぎれし月の舟渡る


 小川軽舟氏の帯文に『トリックスターの野兎のように俊敏だ』と書かれているとおりネタフリからオチまでが実に軽妙だ。
 あと、お金の句をこんなに多く見る句集も珍しいのではないだろうか。

立春の会費袋を回しゆく
銀行の金庫に育つ余寒かな
魚は氷に上りて貯金増えにけり
両替の紙幣に輪ゴム囀れり
鈍色の硬貨の湿り終戦日
ご破算に整ふ指や夕月夜
大陸のにほひの紙幣鳥渡る
札束のかすかにぬくし秋の暮
歳晩や尻ポケットのドル紙幣


 これだけお金を詠んでいるのに守銭奴の臭いがしない。逆に直接お金が出てこない「ご破算に」の句が頭の中で算盤を弾いていて、関西的な腹黒さをかもし出ているという面白さも注目すべきところではないだろうか。

 とにかく、句集『御意』は素通りしてしまいそうな一見普通に見える句も実は軽くボケていたりする。突っ込みどころ満載な作品であるから、おおいにツッコミを入れながら読んでみてほしい。

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