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2014年12月12日金曜日

上田五千石の句【貝】/しなだしん


雪積まぬ渚に拾ふうつせ貝       上田五千石


第四句集『琥珀』所収。昭和六十一年作。前書に「湖北 二句」とある一句目。

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前書の「湖北」はおそらく琵琶湖北東部、長浜あたりを指すのだろう。

訪れたのは折しも雪の降る冬。琵琶湖周辺の中でも湖北あたりは雪の量が多い地域と聞く。同時作「鷗らに雪捨て川のどか濁り」にある通り、川に雪を捨てるほどの降り方だったのだろう。

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同じ湖でも長野の諏訪湖は厚い氷に覆われることがあるが、広大な琵琶湖は氷に覆われることは無い。ちなみに諏訪湖の面積は13.3 km2、琵琶湖は670.25 km2と、改めてその差は歴然である。
その広さから琵琶湖には波があり、波は降る雪をすぐさま解かす。波打ち際には、波の届く範囲で雪の無い処が出来る。雪の積もっている岸、雪の無い渚、湖面という湖畔の景色となる。

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この句の「うつせ貝」は、「つめた貝」、または「鶉貝」の別名ともされるが、どちらも基本的には海に生息する貝である。このことからこの句の「うつせ貝」は渚に打ち寄せられた、空になった貝、貝殻を指すと思われる。「空貝」「虚貝」という漢字表記が用いられる。

雪の日の渚に拾った貝殻を掌に載せて何を思った作者だろうか。

ところで、五千石の貝の句といえば「遠浅の水清ければ桜貝」が有名である。昭和三十八年作のこの句から掲出句の昭和六十一年までに、二十三年の歳月が流れている。

ちなみに上田日差子氏に「仮の世にいろあらばこの桜貝」(『和音』所収)があり、父の「桜貝」の句への、そして何より父への追想が見える。

「うつせ貝」の句には、「桜貝」の句の健全さは見られないが、愁いを含んだ思慕が感じられる。「雪積まぬ渚」は派手さはないが、確かな把握と言えるだろう。

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