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2014年7月4日金曜日

【小津夜景作品No.30】 ミショーの紙魚の、やうなデッサン。 小津夜景





ミショーの紙魚の、やうなデッサン。 小津夜景


アンリ・ミショーの栞をもらつた。
 
なにかのオマケでその人がもらつたものを、わたしにくれたのだ。うれしい。 
アカとエンヂの血痕みたいなのが、手漉きの紙にべつたりと張りついてゐる。 
普段は紙魚にしか見えないのが、必要な際はじわりと意味として浮き上がつてきさうな、ふしぎな含みのある絵だ。 
ああ、いつもことばのことを考えてゐる人の絵だな、とおもつた。

カヤックのほね鳴りゐたり野の部屋で

涼しきに吹かれその手はしりぞきぬ

かまきりをしづかな息は折り畳む

硝子藻を夜もすがら食すしろきもの

風凪げばあゆのあそびも萎えにけり

なつくさをながめてわれはうりぽつむ

ときぞらを斜す交ひ染みぬほうたるの

なつよどみうはずみのみがうつそみたり

ささめごとささやかならで泉割る

これは箱庭をひらいた手にすぎぬ




【作者略歴】
  • 小津夜景(おづ・やけい)

     1973生れ。無所属。





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