第三句集『琥珀』所収。昭和六十一年作。
「妙義山 三句」と前書きがある。
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今年平成二十六年五月、日本山岳会をはじめとする山岳関係者や自然保護団体等からの意見を受け、国会議員などを中心に検討されていた「山の日」という祝日の制定が決まった。日付は八月十一日。施行は二年後の平成二十八年から。
ハッピーマンデーなる制度改訂で三連休を増やすため、月曜に当てはめた祝日が多くなった。たとえば七月二十日であった「海の日」も第三月曜日になるなど。
その中で今回の「山の日」は八月十日と日付が特定された久々の祝日である。ちなみに、「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ことをその旨としている。
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さて、五千石が山歩きをはじめたのは、スランプに陥った昭和四十五年頃からであることは以前(第九回「精神の一句」・第十回「夏の一句」)に触れた。
掲出句も「山」の句である。
前書きの「妙義山」は、群馬県甘楽郡下仁田町、富岡市、安中市の境界に位置する山。日本三大奇勝の一つとされる。いくつもの切り立った岩の頂から成り、最高峰は表妙義稜線上の相馬岳で千百三m余。
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掲出句の同時作は、
白扇を用ひて山気そこなはず 昭和六十一年
山暮にはか「虚飾やめよ」とほととぎす 〃
の二句。また翌昭和六十二年にも妙義山へ赴き、二句を残している。
信仰は難処を強ふる岩たばこ 昭和六十二年
崖みちに工みいささか落し文 〃
これらは山の句というよりも、そこで出会った動植物や物を題材にした句。
一方掲出句は、荒々しく尖った山容と、その「奇峰」に寄り添う「夏の雲」を眼前にした感動を率直に詠った作。「ならふ」は五千石らしい措辞で、「妙義山」ならではの一句といえるだろう。
五千石が存命であれば「山の日」の制定をきっと喜んだことだろう。
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