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2014年5月16日金曜日

小澤實一句鑑賞2/池田瑠那


春一番鉄砲狭間【ざま】を吹き抜けぬ   (昭和61年刊『砧』、昭和56年の章より)


どこの城と示されてはいないが、掲句はやはり作者が少年期を過ごした松本市の名城・松本城を想定して読むのが妥当だろう。一読、数年前に訪れた折の印象がまざまざとよみがえって来た。松本城の内部は見学可能となっており、大天守には敵を迎え撃つ為の「石落し」や掲句に登場する「鉄砲狭間」といった仕掛けが凝らされている。この「鉄砲狭間」を内側から覗くと、鏡のように艶やかな黒漆が塗られた、一種不思議な空間に顔を差し入れる格好になるのである。

松本市公式観光情報ポータルサイト「新まつもと物語」によると、「松本城は戦国末期、鉄砲戦を想定した戦うための漆黒の天守の典型として、現存する唯一の城」とのことである。築城年代は文禄年間、一五九〇年代というから、まさしく当時の戦の最先端を行く城として造られたのだろうが、結局の所、松本城が戦を経験することはなく、鉄砲狭間も使われることはなかった。

鉄砲狭間の「狭間【ざま】」は一般的には「はざま」と読む字である。乱世と太平の世の端境期に造られたこの鉄砲狭間とは、実は時空の「はざま」に零れ落ちた異空間なのではないか。飄と吹き込む春一番は、遥か四百年余の昔から吹いて来る疾風、なのかも知れない。

参考「新まつもと物語」URL

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