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2014年4月11日金曜日

【西村麒麟『鶉』を読む20】 へうたんの外に出てみれば/近江文代

2年程前になる。北千住某所、愉快な仲間達が集まる句会で麒麟ちゃんと出会った。近頃では句会の後の夜学(飲み会とも言う)が楽しすぎて、句会2時間に対して夜学4時間などという妙な比率になっている。

知り合って間もない頃、緊張しつつ某居酒屋で私が注文した大きな豚足を、一緒にニコニコしながらつついてくれたのを見て、ずっと仲良くやっていけそうな気がしたのを覚えている。

酔っぱらった麒麟ちゃんは時々烏賊のようにフニャフニャしていて面白いのであるが、実はこっそり皆を観察していて、後でスピカの「きりんの部屋」あたりにUPされたりするので要注意である。

さて、そんな麒麟ちゃんから句集をいただいた。S/Nは111、ゾロ目である。総発行数が200なのでかなり貴重なゾロ目である。実に嬉しい。

いただいた句集を、なぜか後ろから開いてしまった。

 著  者 西村 麒麟
 発行者 (妻のA子さん) 
 発行所 西村家

ずるいぞ、麒麟ちゃん。これだけでも、結婚2年目の初々しい愛が溢れた句集だということが分かるではないか。すっかり汚れてしまった自分を省みることとなった。

さて、一ページ目をめくると、
 
へうたんの中より手紙届きけり 
へうたんの中に見事な山河あり 
へうたんの中へ再び帰らんと

へうたん王国から日本にやって来ただけあって、早速へうたんの句が並ぶ。いつかは故郷、へうたん王国に帰るつもりだったらしい。故郷からの手紙には「おまえ、いつまでそっちにいるつもりなんだ」、なんて書いてあったのかも知れない。

いつの間に妻を迎へし案山子かな
孤独な案山子の姿は、麒麟ちゃん自身だったのかも知れない。へうたん王国にいた頃とは勝手が違う日本の生活、仕事に忙殺される毎日、そんな中、A子さんという素敵な女性に出会ったのである。

大好きな春を二人で待つつもり
「大好き」と宣言してしまう潔さが悔しいほど心地良い。「大好き」な春に「大好き」な妻が加わってますます「大好き」な季節となった。

それぞれの春の灯に帰りけり

これからは一人で暗い部屋の鍵を開けなくていいのである。西村家にぽわんと灯る春の灯、そして麒麟ちゃんを待つ愛しい妻の姿。どんなに酔っぱらっていても、終電を逃すことなく家路を急ぐ麒麟ちゃんの姿が私には見える。
 
嫁がゐて四月で全く言ふ事なし

ここでも「全く言ふ事なし」と言い切る麒麟ちゃん。天晴!

そんな幸せな四月ももうすぐやって来る。句の中には詠まれてはいないが、満開の桜まで見えてくる気がしてしまう。

どうやら、へうたん王国からやって来た麒麟ちゃんは、愛する人と日本でずっと暮らしていくことに決めたようである。

めでたし、めでたし。

麒麟ちゃん、また北千住で豚足食べましょうね。


【筆者略歴】

  • 近江文代(おうみ・ふみよ)

   「野火」同人  東京都在住。





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