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2013年8月16日金曜日

文体の変化【テーマ:昭和20年代を読む10~年中行事その⑤~】/筑紫磐井

間に余計なサマータイムが入ってしまったが、また年中行事に戻ってみる。以下祝日等で当時最もよく詠まれたものをあげて、その詠み方を点検してみよう。初めて生まれる季語がどのように本意を獲得していくかが分かるであろう。

【文化の日―11月3日】★

※国民の祝日に関する法律によれば、「自由と平和を愛し、文化をすすめる」とされ、この日は戦前の明治節(明治天皇の誕生日)、祝日法の審議の過程で明らかなように、戦後の日本国憲法の公布日となっている。

文化祭戦盲の将老静か 雲母 24・3 三浦甫舟 
文化の日後の月夜となりにけり 曲水 25・1 佐野青陽人 
天皇は篤学にまし文化の日 ホトトギス 25・3 川田信生 
文化の日ひとの復活うつくしく 曲水 26・4 潤月 
菊活けて文化まつりの事了る 曲水 28・2 遠野闘夢 
吾子の画の選ばれ並ぶ文化の日 馬酔木年刊句集 希代一閑子 
文化の日一冊の書を妻にも買ふ 馬酔木年刊句集 鈴木青洋

※戦後の日本人にとって文化は羨望であったからそれらが率直に詠み込まれた句が多い。従って俳句の特質と言うよりは、戦後日本の羨望と見てよいであろう。後述するようにこの季語は広がりを持って行くのだが、その前に、先ず多くの人が使いたくなるような俳句らしい、新しくて時代性のある季語であることが必要であった。

火鉢に火入れて文化の日をひとり 春燈 28・2 山澤雉子亭 
文化の日吾に悔なく麦を蒔く 雲母 29・1 向井老樵 
職工として父老い給ふ文化の日 馬酔木年刊句集 石井博
※特に従来、文化とは縁のなかった人々や生活が文化に照らされるというしみじみとした感慨は如何にも俳句にふさわしいものである。前回も述べた境涯性とかかわり合うものである。「文化」を俳句で詠むのは難しいが、「文化の日」が俳句の受容度を高めているのである。

文化の日無為に果てたることを悔ゆ 石楠 28・1 佐久間敏雨 
ジェット機の爆音高く文化の日 雲母 28・1 大関馬骨 
文化の日ほろほろ黒き飯食らふ 暖流 29・1 中島南映 
※一方で、文化と対照的な現実があることも事実であり、文化の日と配合することによりそうした矛盾を摘出する役にも立つ。これはむしろもう一つの流れ、社会性俳句につながるものである。

文化の日人は眼鏡を飾とし 俳句研究 25・2 佐野青陽人 
パチンコの玉流れ出て文化の日 俳句苑 27・5 林屋清次郎

※こうした視点が一層深まると、諧謔味にあふれた俳句が登場することとなる。戦後俳句と言っても、普遍性を帯びた句となってゆくのである。

※以上眺めたように、季語の中自身に発展する契機があることが必要なのである。

ちなみに、11月3日、新憲法公布の日を詠んだ句が「揺れる日本」のなかで別に掲げられている。現在の憲法記念日(5月3日)ではなく、文化の日(11月3日)=新憲法公布の日と思って読むと別種の本意が生まれてくるようである。ちなみに青邨は「新憲法公布の日」を季語と思って詠んでいたようである。

【新憲法公布】

秋陽満つ日本歴史の曲り角 太陽系 22・1 日野草城 
教授達髪白く憲法祭典の日 花宰相 21 山口青邨

文化の日と合わせて鑑賞することによりとりわけ面白さが増すのではなかろうか。

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