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2013年8月9日金曜日

文体の変化【テーマ:昭和20年代を読む9~年中行事番外~】/筑紫磐井

今回は年中行事の連載を1回飛ばして特別な題を紹介する。夏にふさわしい題であり、かつ昭和20年代ならではの題であり、その前にもあとにもぴったりした時代はないという意味でここら辺で紹介しておいた方がいいと思うからである。よく政治家の趣味でこの制度が時々提案されるが、その時はどんな事態になるかはこのわずかな期間の実験しかないのである。例句を見て想像していただきたい。

(今回取り上げたのは、24節気が一年の枠組みであるのに対して、サンマータイムは一日の枠組みであり、絶対的に見える一年や一日の枠組みが、恣意的にこのように変わってしまうと言う例を見て貰いたかったからである。結局は、サンマータイムを採用している米軍が、その方が日本で生活するのに暮らしやすかったからであり、日本人の内的必然性ではなかった。だからサンマータイムは、サンフランシスコ条約締結と共に去っていったのである。占領時代を代表する最もよき風景である)

【サンマータイム】

サンマータイム野良にせがれて刻しらず 石楠 23・8 山口止耕 
サンマータイムうしほの如く朝来る 曲水 23・8 田中一荷水 
夏時間に入るやえにしだ黄に団る 暖流 23・8 瀧春一 
夏季タイム歯磨粉浮く水を捨つ 寒雷 23・10 齋藤道草 
サンマータイム王者のごとく時計の針 曲水 23・11 遠山純 
夏季時間はてたる朝の潮みてり 雲母 23・12 岩津元三 
夕ながく樺太に似て夏時間 ホトトギス 24・8 伊藤雪女 
サンマータイムてふもの長し松の心 曲水 24・7 佐野青陽人 
サンマータイム病躯守らんとして眠る 同 二見ひろし 
憂ひありサンマ―タイムいつまで昼 天狼 24・11 塚原巨夫 
夏時刻針を戻してまた読みぬ 曲水 25・12 森田月亮 
夏時間十指洗ふを始めとす 麦 26・4/5 豊島年魚 
サンマ―タイム牛癇強き眼を上げる 石楠 26・9青木彩夫 
夏時間芝の青さに飽きにけり 春燈 26・11 龍岡 晋 
夏時間日だかき風呂を溢れしむ 青玄 同 榊年明 
サンマ―タイム南瓜抱へし妻と会ふ 天狼 27・11 藤墳泉城 
九月蚊帳サンマ―タイム終りけり ■■集 日野草城


※日本の夏時間は、昭和23年から26年まで採用された制度で、5月初め(24年は4月初め)から9月初めまでの間、中央標準時より一時間進めた時刻(夏時刻)を用いるものとする制度である。従ってサラリーマンや学生には、出勤・登校時間が1時間早まることになる。退社も1時間ずれるので、帰宅後の明るい時間が続くわけである。

結局この題では朝を詠むか、夕方を詠むかしかない。昼はサマータイムの特色は何もないからである。その意味では、夜の時刻なのに昼の風景というのが俳諧的で面白いようで、例句にもそうした句が多い。

ちなみにどの句もサマータイムを夏の季語として使っているが、実際は旧暦の歳時記に合わせれば、晩春から仲秋に該当する。季語ではないのである。しかしどの作者もそんなことを無視して夏の題として使っているようである。

驚くべき事実がある。サンマータイムは、通常の標準時よりずれるわけであるから、その差がある一点で矛盾を来す。サンマータイムの初日は深夜零時がずれこむから一日23時間となるのである。逆に最後の日はずれこんでいた深夜零時が戻るから一日25時間となるのである。昔より今の方が人はあくせく生きているから、初日と最終日で意外な金儲けの機会が生まれるかも知れない。



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