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2013年8月9日金曜日

赤尾兜子の句【テーマ:場末、ならびに海辺】/仲寒蝉

やがて海藻と陰鬱な絵となる老婆   『虚像』

二つある「と」はおのずから意味合いが異なる。最初の「と」は「海藻とともに」の意味、二つ目の「と」は「絵になる」の「に」と同義。

この場合の「やがて」は古典によくある「時を移さず」の意味ではなく、近世以降の「そのうち、おっつけ」というような意味であろう。

老婆が海藻を採っている。もちろん海に潜ってではなく波打ち際に打ち上げられたものを拾っているのだろう。売り物にはならないが家で食べるのには支障あるまい。特に難解な言葉遣いもなく一句の解釈には問題ない。ただ問題は老婆が海藻を拾う風景を作者が何故「陰鬱な絵」と感じたかの方だ。

後ほど兜子の人生に大きくのしかかる鬱病の資質によるものと言ってしまえばそこで思考停止。この前後の俳句は当時の関西地方の都市というか場末の描写が多く、どれもモノクロ写真の暗さを秘めている。それは作者の心の暗さであると共に時代の暗さ、都市の暗さでもあったろう。この前々年、昭和34年には第1句集『蛇』を刊行し、前年には「渦」を創刊、さらにこの年、昭和36年には中原恵以と結婚し第9回現代俳句協会賞を受賞するなど外から見れば順風満帆の人生に見えるのだが・・・。


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