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2013年6月28日金曜日

文体の変化【テーマ:昭和20年代を読む⑤~年中行事その1~】/筑紫磐井

戦後皇室を中心とした行事から、民主的な理念に基づく行事へ変更したのが国民の祝日に関する法律(昭和23年7月20日公布)に基づく国民の祝日だ。戦後すぐに新しい祝日がどのように詠まれたかを「揺れる日本」から眺めてみる。

ちなみに、戦前の祝祭日は「休日ニ関スル件」(昭和2年3月4日勅令第25号)で定められており次の通りであった(*は戦後も休日となったもの)。

元始祭(1月3日)
新年宴会(1月5日)
紀元節(2月11日)
神武天皇祭(4月3日)
天長節(4月29日)*
神嘗祭(10月17日)
明治節(11月3日)*
新嘗祭(11月23日)*
大正天皇祭(12月25日)
春季皇霊祭(春分日)*
秋季皇霊祭(秋分日)*

【成人の日―1月15日】

俵あむ子に成人の日の来り 石楠27・11 横尾永春
※国民の祝日に関する法律によれば「おとなになったことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」こととされ、旧暦では1月15日は小正月に該当していた。

【天皇誕生日―4月29日】

天皇誕生日紫陽花に草毟る 俳句 27・8 畦見喜太郎 
田圃より見ゆ天皇誕生日の国旗 石楠 28・8 石塚蕗雄子 
水底に微温天皇誕生日 青玄 29・9 蛯名豚花

※国民の祝日に関する法律によれば、「天皇の誕生日を祝う。」こととされ、戦前は天長節と呼ばれた。

【子供の日―5月5日】

子供の日子のさみしきに責を負ふ 暖流 24.7 大島龍子 
ででむしが旭え角かざし子らの日だ 道標 27・12 古沢太穂
※国民の祝日に関する法律によれば、「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する」こととされ、旧暦5月5日は端午の節句にあたり、男子の健やかな成長を願う行事が行われていた。

【文化の日―11月3日】→例句は後述

【勤労感謝の日―11月23日】

夜明けから薪割って勤労感謝の日 石楠25・3 安倍布秋 
骨ぐるみ鮒食ふ勤労感謝の日 同 26・1 西村◆笛 
雨に濡れ鉄打つ勤労感謝の日 氷原帯 27.2/3 福島真蒼海

※国民の祝日に関する法律によれば、「勤労をたつとび、生産を祝い、国民たがいに感謝しあう」こととされ、戦前の新嘗祭の日となっている。

    ◆     ◆

以下は国民の祝日ではない日が掲げられている。

【母の日―5月第2日曜】→例句は後述

【赤い羽根共同募金―11月1日より1カ月】→例句は後述

【巴里祭―7月14日】

円ら眼の嗣治の裸婦よ巴里祭 馬酔木年刊句集 岡田貞峰 
巴里祭しのぶか森の家に楽 馬酔木 28・10 竹中春男 
汝が旨の谷間の汗や巴里祭 青玄 28・9 楠本憲吉
※当然のことながらフランスの革命記念日。ルネ・クレールの戦前の映画(原題Quatorze Juillet)で有名、命名は川喜多長政。あるいは楠本憲吉の句で有名か。

【バードデー―5月10日】

バードデー鴉に種藷盗られしのみ 寒雷 29・8 高坂白峰

※鳥類保護連絡協議会により昭和22年4月10日、第1回バードデーが実施された。昭和25年からは5月10日~16日を愛鳥週間(バードウィーク)とした。バードデーとバードウィークが混乱されて使われている。

【婦人デー―4月10日】

婦人デー雪ふかく積み屋根屋根の灯 道標 27・12 富山青波
※労働省(現在の厚生労働省)が1949年に「婦人の日」として制定。1998年に「女性の日」に改称。ちなみに国際婦人デーは3月8日。

    ◆     ◆

不思議なのは、現代ではその意味も分からず、時期も不明なキーワードがたくさんあることだ。もちろんこれは私だけが分からないのかも知れないが。

【農民祭】

農民祭土蔵ぬりかへられてゐる 石楠 26・1 堀川牧韻
※不詳。秋から冬にかけての季語として用いられているようである。収穫祭の意味であろうか。

【復興祭】

復興祭わびしや柿の皮をむく 太陽系 22・1 伊藤正齊 
復興祭ネオンが吾をさびしくす 暖流 22・11 中村研治

※不詳。秋から冬にかけての季語として用いられているようである。

【文学祭】

おでんの灯文学祭は夜となりぬ 俳句 23・1 山口青邨
※不詳。秋から冬にかけての季語として用いられているようである。

【独立祭】

独立祭金魚は玻璃を占めて泳ぐ 俳句研究 21・9 大野林火
※具体的場面が分からない。「独立祭」が海外のものなら、アメリカの独立記念日かフランスの革命記念日(巴里祭)となる。少なくとも詠まれた年から考えてサンフランシスコ講和条約発効の日ではないようだ。

この中で、最も多くの句が詠まれた新しい年中行事が次の三つの日であった。

【文化の日―11月3日】

【母の日―5月第2日曜】

【赤い羽根共同募金―11月1日より1カ月】

なぜこれらが特に好まれたかは次回また考えてみたい。これらは、戦前何の根拠もなかったところから戦後突然生まれた季語であり、しかしながら、短期間にこれだけたくさんの句が生まれるにあたったわけで、季語が生まれ、発展し、題意が生じる独特の過程を見ることができるという意味で、現代季語論では興味深いものがあるのである。それぞれの季語によって事情が異なっている。それは次回以降で述べよう。

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