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2013年5月17日金曜日

上田五千石の句【テーマ:白】/しなだしん

濁流のしぶくところに栗の花

第一句集『田園』所収。昭和三十七年作。


この句の自註には「岩手県一戸、馬渕川にて。見たとおりの写生が素直に出来たためか、嫌にならない句」とある。

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自註にある「馬渕川」は、岩手県北部および青森県南部を流れる一級河川。また「岩手県一戸」は、県北部に位置し、現在は「岩手県二戸郡一戸町」。

岩手から青森には「戸」の付く地名が点在する。青森には、三戸町・五戸町(三戸郡)・六戸町・七戸町(上北郡)・八戸市の五つ。岩手には、一戸町(二戸郡)、二戸市、九戸町(九戸郡)の三つがある。ちなみに、四戸(しのへ)は、現在はない。

この「戸」は、平安時代後期の奥州藤原時代に、糠部(ぬかのぶ)郡が置かれたが、それを九地区に分け、一戸から九戸の地名が付けられた。「戸」は「○地区」「○地方」ほどの意味らしい。「戸」については、この他に「牧場の木戸のあった場所」、「蝦夷平定の際に残した守備兵の駐屯地(戸=きへ)」など、諸説あるという。

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話は逸れるが、数年前岩手南部の一関あたりを旅した折、厳美渓(げんびけい)に立ち寄った。丁度青葉の頃で、渓にあがる水しぶきが浮いたように真白く見えたのをよく覚えている。ちなみにこの厳美渓は“空飛ぶ団子”「郭公だんご」が有名である。「郭公だんご」は、渓に渡されたロープによって横断する、「かっこう屋」の団子を売る方法。私も多分に漏れず、この郭公だんごとお茶をいただいた。

掲出句の「一戸」と、この「一関」は同じ岩手ではあるが、場所も離れ、河川と渓との違いもある。だが、掲出句の「しぶく」という措辞に、その時の渓の飛沫の白さを思い出した。

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掲出句で川は「濁流」と詠われている。自註に「見たとおりの写生」とあり、五千石にしてはおとなしい表現であるかもしれないが、濁流が「しぶく」という把握は出来そうで出来ないと思う。また栗の花の噎せるような匂いが「しぶく」水によって、より一層感じられ、しぶきの「白」と栗の花の「さみどり」の色の対比が鮮明に浮かんでくる。

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