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2013年2月8日金曜日

永田耕衣の一句【テーマ:一】/池田瑠那

一月や穴を一一見る勿れ


リズムは良いものの何とも謎めいた句。「穴」には欠損、欠点の意あり、それに従うなら「一月、年も気持ちも改まった事である。物事のマイナス面を一々あげつらうのは止めよ」とでも解釈できようか。いや、もしそうならば、詩ではなく格言になってしまうだろう。

耕衣俳句の「穴」とは何であるのだろう。実は掲句を収めた句集『殺祖』中においては「穴」を題材にした句が五句続いた後に、この「一月や穴を一一見る勿れ」が登場している。掲句に先駆ける五句は「一月穴穴を見回る翁居る」「一月や一一穴の明けて居る」「穴の中に穴在りと言う草の枯れ」「一月やいまだ穴には非ざるも」「仏こそ穴ムラサキシキブの辺り」。この一句一句についての読み込みはさて置き、「穴=欠点」と言った単純な解釈は出来ないという点は肯われよう。

穴という漢字は、そもそも崖に掘って作った住居としての「穴」を表しているという。母胎回帰願望――など持ち出すまでもなく、人類は長い間穴を生活の場所としていたのであり、穴を慕い懐かしむ思いが、我々の心の奥底にあっても不思議でないと考えられる。生と安住の場としての穴。だが一方で、穴には墓穴、塚穴のイメージも付き纏う。穴は、死と安眠の場でもある。

何れにせよ、「穴」とは生死の神秘に縁深いもの。軽い気持ちで「一一」見ていると、思いがけぬことになるやも知れない。そうそう、穴には「向こう側まで突き抜けた所」の意もあるではないか。迂闊に覗き込んだばかりに、異界に引きずり込まれる事も、ないとは限らないのである。(昭和56年『殺祖』)

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