2014年5月2日金曜日

小澤實一句鑑賞1/ 池田瑠那


太陽の黒点増ゆる春の風邪   (昭和61年刊『砧』、昭和52年~54年の章より)


 黒点とは太陽表面に見られる、黒いしみのような点のこと。「太陽の活動が活発なときほど黒点は多く見られ、その活動の強弱は11年周期で変化している。」(縣秀彦『「宇宙」の地図帳』青春出版社)というものである。

 掲句の主人公は春の風邪の軽い気怠さの中、遥かなる太陽の黒点の増殖に思いを馳せている。書かれているのはそれだけだが、読み返すうち、この「春の風邪」のような体調不良や倦怠感を、黒点を増やしている最中の太陽自身も感じているのではないか、と思えて来る。太陽の活力溢れる時にこそ出現する黒点とは、天地に生命の輝き満ちる春に引いてしまった風邪の煩わしさと相通じるのではないか。

 主人公も、きっと若く、様々な物事に取り組む意欲に溢れた存在なのだろう。今まさしく人生の春、豊かな時間と可能性を手にしながら、却ってそれに慄きを覚えるが故の心身の不調――「春の風邪」に見舞われている。だが恐らく、黒点増殖中の太陽のように、再び活発に炎を噴き上げることだろう。作者二十代前半の作。



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